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セイラ4 1章の続き2 [セイラ4]

「ひどいよ、セイラ。」

 セイラはホトトギスの咽び泣くのをしばらく見ながら、微かな疑問がふと浮かんできた。自分は思わず声を荒げてしまったのに、どうして、誰も目を覚まさないのか。彼女は、そう思い、同室している女性神官に視線を転じた。何事もなかったかのように静かな寝息を立てていた。セイラは、その姿を見て、「あんた、一体、何をしたのよ」と、何を考えているのか目を瞑りながら嘴を突き出しているホトトギスに挑みかかった。

「僕は何もしていないよ。そんな事より、再会のキスをしてくれないの。僕達二人はもう他人じゃないんだから、誰に憚ることなく、キスをしてもいいんだよ。」

 思い出したくないことを思い出したセイラりは、ますます憤った。鬼のような形相をしながら、湧き上がる怒りを堪えながら静かな声で「僕達は他人じゃないから、というのは、どういう意味?」と尋ねた。

「忘れたの、セイラ。セイラは僕に変わらぬ愛を誓ったじゃない。そして、誓いのキスをしたじゃない。」

 ホトトギスは、そう言うと、何処からか真紅のバラを一輪取り出し、「そんな事より、僕のほんの気持ちなんだけど、これを受け取ってよ」と語り掛けてきた。彼女は、何が何だか分からないといった表情を浮かべながらも、取り敢えず「ありがとう」と言ってそれを受け取った。そして、何処か見憶えのあるようなその花を見て、いやな予感に襲われた。

「あんた、この花を何処から持ってきたのよ。」

 質問ではない。詰問であった。ホトトギスは、いささかも悪びれることなく、「捨ててあったんだ。こんなに綺麗な花を捨てるなんて、何てもったいないことをするんだ、と思って、拾ってきたんだ。だから、気にしないで受け取っていいよ」と返答した。

 これほど見事な薔薇が捨ててあるわけがなかった。神殿内の女神像に供えられた花を失敬してきたのは間違いなかった。しかし、いくら彼を問い詰めても、そのことを認めるはずはなかった。セイラは、作戦を変更して、優しい声で「そうなの。捨ててあったんだ。疑ってごめんなさい」と言った。そして、予想外の反応に驚いた様子を見せるホトトギスに、さらにこう尋ねた。

「それで何処に捨ててあったの。こんなに綺麗な花なら、もっと欲しいわ。これから、一緒に摘みに行きましょう。」

 ホトトギスは、一瞬面食らったような表情を見せたが、セイラとともにお花摘みに出掛けるという魅力的な誘いを受け、即座に事の真相を告げた。

「この神殿の最奥にある、水晶のような、ダイアモンドのような、しかし、それとは違った不思議な光を放つ石柱の所に、この薔薇は捨ててあったんだ。僕が思うに、あそこはこの神殿のごみ捨て場に違いないね。そして、あの不思議な石柱も捨ててあったに違いない。それにしても、何てものを見る目のない人ばっかりこの神殿にいるんだろう。あの石柱があれば、一生遊んで暮らせるだけのお金が出来ると言うのにね。そうと知っていたら、あれも拾ってきたのに。ホント、もったいないことをしてしまったよ。」

 そう言い終わると、ホトトギスはいかにも残念といった表情を浮かべた。それとは対照的に、彼の話を耳にして、セイラの顔から血の気が一瞬にして失せていった。

「せいら、どうしたの。随分と顔色が悪いよ。それに、何だかぼんやりしているみたいだし。何処か具合でも悪いんじゃない。」

 ホトトギスのその言葉で我を取り戻したセイラは、鬼神もかくはという表情を浮かべて、彼を睨み据えた。

「あんたって奴は、あんたって奴は。」

 彼女は、何度もそう言うと、力なく頭をうな垂れた。

「どうして、そんなに面倒ばかり起こすのよ。」

 今にも消え入りそうな声で呟くようにそう言った。

「そんなに誉めないでよ。恥ずかしいじゃない。」

 常人であれば見取れないであろうが、彼と片時も離れないセイラの目には、彼の頬が微かに紅潮しているのがはっきりと見取ることが出来た。そして、怒る気力さえ失い、セイラは、力弱く「早くそれを戻してらっしゃい」とだけ彼に告げた。

「えっ、この花捨てちゃうの。」

 ホトトギスは心外そうにそう呟いた。しかし、何か思いついたらしく、すぐさま彼女に話しかけた。

「そうか、そうだよね。こんな花なんかよりも宝石の方がいいもんね。ちょっと待ってて、すぐに、あの石ころを持ってきて上げるから。」

 ホトトギスは、そう言うと、彼女が突き出した花を嘴で銜え、飛び上がった。

 


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