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セイラ4 2章の続き15 [セイラ4]

 嵐

 

 鯱がいなくなり、退屈な船内は鳥の頭を付けた化け物の話で再び賑わい出した。あの日以来、そのような事件が起きておらず、恐怖から解放された船の乗客は、面白おかしく話しに尾鰭を付けて、その馬鹿話を楽しんでいた。

「何でも、俺の聞いた所によると、あの化け物は、女好きで、船室にいた女の神官を連れ去ったそうだ。一つ寝台が空いているだろう。あそこにいた女の神官が連れ去られたそうだ。」

 いつものように、腹ごなしの散歩をしていたホトトギスは、その話を聞いて、その話に参加した。

「あっ、そうなんだ。夜散歩していて、たまたま、うら若い女の子が水に飛び込むのを見たんだけど、そういうわけだったんだ。きっと、あの魔物に魅入られたんだろうね。捜索をしても、見つからなかったものね。」

 鳥が人のように喋るのだから、その方がよほど珍しいのだけれども、最初はそのことを訝っていた乗客も、すっかりホトトギスに慣れ、今ではそれが当たり前のように感じていた。さして彼に注意を払うことなく、厳めしい面構えの男が更にホトトギスの話に続き途方もないほら話を始めた。

「俺もそれは見たぞ。水にいた鳥の頭を付けた化け物が、お前みたいに、人間の言葉をかけて、誘ったんだ。聞き憶えのない言葉だったから、何を言ってるかまでは分からなかったが、今考えてみると、魔法をかけたんだろう。俺は、その女を助けようと、水に飛び込んだが、幾ら捜しても、女の姿を見つけることは出来なかった。きっと、魅入られて、今ごろその化け物の女房になっているんだろうな。かわいそうに、今思い出しても、涙が出てくる。」

 話している内に、虚構と現実が区別できなくなり、その男は目に涙をうっすらと浮かべ始めた。そんな彼の足元を掬うように、

「それで、お前は、どうやって上がったんだ。船から海に飛び込んだら、帰って来れないだろうに」

と言った。当然の指摘である。困った表情を浮かべた男を救うために、また、より話を面白くするために、ホトトギスが助け船を出した。

「僕がロープを持っていったんだ。そして、隣の兄ちゃんと一緒に引っ張り上げたんだ。」

「そうそう、俺がこいつと一緒に引っ張ったんだ。やけに重かったのを憶えている。魔物が、あんたも一緒に引っ張り込もうとしたんだろうな。ほんと、大変だったよな。」

 確認を求められ、ホトトギスは、大きく頷いてみせた。折角の英雄的な行為を横取りされた形になり、水に飛び込んだと言う男が更なるほら話を始めた。

「ああ、魔物がうじゃうじゃいたよ。盛んに俺の足を引っ張ろうとしていたな。そいつらを足で蹴散らすのに俺は苦労したよ。今、思い出しても、身が竦む思いがするよ。」

「そのおじさんを助けたのが、あの鯱なんだ。凄かったよ、その時の戦いの場面を。みんなに魅せられないのが、残念なくらいだ。」

 ホトトギスは、そう話を締めくくると、こつこつと足音を立てて彼に近づいているセイラのもとへと、鶏のように素早く甲板を走っていった。そして、セイラの足元に到着すると、早速仕入れた化け物話を始めた。

「今、あの人から聞いたんだけど、鳥の頭を付けたあの化け物は、女性の乗客をお嫁さんにしようと、引っ張り懇談だって。セイラも気を付けないとね。」

 セイラは、また、例のほら話か、と思った。その気色を感じ取ったホトトギスは、「嘘じゃないよ。みんな、そう言っているんだから。嘘だと思うなら、行って、話を聞いてみたらいいよ」と言った。

 世界は広い。蝿と象の合成獣、蝿象を目にしたことのあるセイラは、鳥の頭を付けた化け物が底知れない海に潜んでいることもありえうかもしれないと思っていたが、日に日にエスカレートして行くその話をとても信じる気にはなれなかった。そして、「物を取ったと言うのは本当かもしれないけれど、乗客がいなくなれば、船員の皆さんがきっと騒ぎ出すでしょう。全然、そんな様子、ないじゃない。あんた、みんなに担がれているのよ。」と尤もらしい指摘をした。

 そんなことはセイラに改めて指摘される間でもない。何しろ、今話題になっている鳥の頭を付けた化け物の正体は、ホトトギス本人なのだから。

「きっと、船の評判を落とすのがいやで、そのことを黙っているんだよ。口裏を合わせているに違いないんだ。でも、セイラは心配しないでもいいよ。僕が命にかけてセイラのことを守って上げるから。」

 セイラは、「はい、はい」と言って、ホトトギスの体を拾い上げた。そして、何気なく見た西の方に黒雲が立ち込め始めているのを見て、ホトトギスに「あれは何かしら」と暢気に尋ねた。ホトトギスは、セイラの右肩に上ると、セイラの指差す方を、目を凝らして見た。そして、嬉しそうにこう叫んだ。

「嵐だ。嵐が来る。やった、船が揺れて、楽しくなるね。」

 


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