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セイラ2 11章の続き13 [セイラ2]


 ホトトギスは、それを食べ尽くすと、「歓喜の舞」をカイの右肩の上で始めた。


 ホトトギスが予想外の行動をすることはいつものことであり、カイはことさら意に掛けなかったが、ホトトギスが突然右の翼で前方を指し示し大声でこう叫んだ。


「あっ、あれは天井歩き亀ではないか。あんな所に潜んでいやがる。さっさと、クロウリー、捕まえに行け。」


 相手はヤモリのように岩肌を平気に登り、天井さえ歩くという信じ難い生態を有する生き物である。しかも、ムササビのように、素早い身のこなしで滑空するという。それが真実であったなら、とても魔術師のクロウリーの手に負える相手ではなかった。クロウリーは不安そうな表情を浮かべてホトトギスの方を見た。


「早く行かないと、逃げてしまうだろうが。大丈夫、天井歩き亀は、夜行性で、昼間は動きが鈍いんだ。お前でも簡単に捕らえることが出来るさ。」


 ホトトギスに促され、クロウリーはゆっくりと亀に近づき、そして、岩陰に隠れている天井歩きが目を難なく捕まえた。あまりの呆気なさに拍子抜けした様子で、クロウリーがホトトギスに尋ねた。


「本当に、これはあの伝説の『天井歩き亀』なのですか。見るところ、何処にでも見られるような陸亀のようですが。これでは詐欺ではないでしょうか。」


 ホトトギスは、亀をクロウリーから受け取ると、「天井歩き亀が、そうそう、簡単に空を飛んだりするもんか。外敵に追われたり、よんどころない理由がない限り、天井歩き亀だって、天井を歩いたり、空を飛んだりしない。天井を歩いたり、岩肌を登る行為は、予想外に体力を使うからな。亀だって、疲れることはしたくない」と答えた。


「それはそうとして、天井歩き亀には、滑空用に薄い皮膜が足の間にあるのではないですか。そんな物は、何処にも見当たらないようですが。」


 ホトトギスは、クロウリーの執拗さに閉口しながら、適当な言い訳を始めた。


「これはメスだな。メスには皮膜がないんだ。滑空できるのは、オスだけ。残念だったな、クロウリー。」


 ホトトギスの話が本当なのかどうかは分からないが、オスとメスの形態が異なることは、自然界ではよくあることである。例えば、鳥の世界では、オスとメスの姿が大きく異なることがある。どうしてそれほどまで華美でなければならないのだろうかと思われるほど、派手ないでたちのオスに対して、メスが地味な色をしていることは良くある。一緒にいる所を見なければ、同じ種類の鳥であることに気づかないということもある。それと同じように、天井歩き亀のメスに皮膜がなくとも不思議でもなかった。とは言え、それでは、天井歩き亀を捕獲した価値が半減してしまう。クロウリーが欲しいのは、空を飛ぶ亀であり、天井を歩く亀である。


「これでは、学術的な価値が全くありません。何処かに、オスはいないのでしょうか。」


 飲み込みの悪い奴だなと思いながら、ホトトギスは近くを見回した。幸いなことに、すぐ側にもう一匹の亀がいた。ホトトギスは、クロウリーのためにその亀を飛ばしてみせてやることにした。


「何だ、あれは。蝙蝠か。」


 ホトトギスは、わざとらしい声を上げて、あらぬ方向を翼で指した。クロウリーが振り向くと、ホトトギスは近くにいた亀を蹴飛ばし、それを飛ばしてみせた。もちろん、ただ蹴飛ばしただけなら、すぐに落下してしまうし、何より亀の身に危険が及ぶ恐れがある。我が侭で狂暴であるが、生命の尊厳を知っているホトトギスは、亀の体に何度も息を吹きかけ、亀の体をコントロールした。


 クロウリーは、猛烈な勢いで飛び去って行く「天井歩き亀」の姿を見て、歓声を上げた。


「素晴らしい、これが『天井歩き亀』の滑空姿なのですか。素晴らしい。本当に素晴らしい。」


 ホトトギスは、クロウリーの満足そうな声を耳にして、機嫌を良くした。そして、彼に話し掛けた。


「さあ、もう十分だろう。もう行くぞ。」


 見なければ諦めをついたであろうが、実際に亀の飛ぶ姿を見れば、その亀を捕まえたいと思うのが人情である。クロウリーは恐る恐るホトトギスにお伺いを立てた。


「あのう、あの天井歩き亀は捕まえに行かないのですか。」


「昨日、言っただろう、天井歩き亀は絶滅危惧種で貴重なのだ、と。お前は、天井歩き亀の雌雄を捕まえて、絶滅の速度を上げようと言うのか。それに、天井歩き亀の雄は、雌に比べて少ないんだ。天井歩き亀が絶滅したら、お前のせいだからな。」


 ホトトギスの得意の口からでまかせである。普段の冷静沈着なクロウリーであれば、彼の口に任せたでたらめを見破ったかもしれないが、亀が空を飛ぶという信じ難い光景を見たばかりである。未だ興奮止まない、感情の昂ぶっているクロウリーは、ホトトギスのたわいのない嘘に簡単に騙せられてしまった。


「だとしたら、この雌の亀も大きくなったなら、さっきの亀みたいに空を飛べるようになる可能性があるということでしょうか。」


 あまりに真剣な表情をしてホトトギスに質問するクロウリーの姿を見て、カイは苦笑した。そして、誤解を解くために、クロウリーに話し掛けた。


「クロウリーさん、ホトトギスの口から出任せを信じちゃ駄目ですよ。どうせ、全部嘘に決まっているんですから。」


 クロウリーは、如何にも心外そうな表情を浮かべて、カイに反論した。


「カイ君も、亀が空を飛ぶ光景を見たでしょう。あれを見ても、まだ、天井歩き亀の実在を信じないのですか。それこそ非科学的な話ではないですか。私は、誰が何と言おうが、自分のこの目を信じます。私は現にこの目で亀が空を飛ぶ姿を目にしたのですから。亀が空を飛んだと言う事実と、私がそれを目撃したと言うことは、誰が何と言おうが否定できない事実なのですから。」


 これまで、何度もホトトギスに騙された経験があったが、魔術師であるクロウリーは、科学者の冷徹な一面も有していた。彼が天井歩き亀の滑空する姿を見たと言うことは、紛う事無き事実であった。


 一方、事の意外な進展にホトトギスは驚いた様子を見せていたが、クロウリーにこう答えた。


「また、天井歩き亀のオスに出会えると、いいな。」


 クロウリーは、ホトトギスに「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。それを目にして、カイはまじめにクロウリーに忠告するのが急に馬鹿らしくなった。彼は視線をクロウリーから転じてセイラの待つもとへと向かった。



今日のアニソン2 [ネムネコの呟き]

あれだけでは足りないの、さらに追加。



ネムネコの野望ソングはこちら↓。








「急がば廻れ」ということで



締めはヤッパリ、アリスだケロ!!




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今日のアニソン [ネムネコの呟き]

今年、最後の「今日のアニソン」ですから、ネムネコ幻想郷にとって大切な曲のオンパレードです。


























これらの曲は、ねむねこ幻想郷内において記事に埋め込んだ数が違うにゃ。
特別な意味を持っている曲だにゃ。


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第51回 やり残し [ネコ騙し数学]

第51回 やり残し



前回、50回の②の証明をするにゃ。


αg(z)の1位の零点とする。ただし、h(α)≠0とするにゃ。

そして、このz=αを中心として、h(z)g(z)をテーラー展開すると、

よって、

となる。

となるからだにゃ。

で、

の解だけれど、

となる。


で、留数定理が実積分と具体的にどう関係するか、ちょっとやってみるにゃ。


問題 次の積分を求めよ。


【解】

この積分をIとする。

で、

となる。

こうすると、θ=0は原点を中心とする単位円|z=1になるよ。

ということで、

となる。

の極はz=a,1/a。よって留数は、51回の②式より―――つまり、分母だけzで微分する―――

となるにゃ。

ここで、気をつけないといけないのが原点を中心とする半径1の円|z=1にどちらの留数が含まれているか。

a>1のときは、z=aは円の外、z=1/aは円の中にあるので、留数定理より、


a<1のときは、z=aが円の中にあるので

となる。

2つ合わせて書くと、

となる。
(問題終わり)

この積分は、普通の微分積分の知識を使って求めようとしても簡単には求まらないにゃ。


カップ焼きそばにチョコソース 「一平ちゃん」に新商品 朝日 [ネムネコの呟き]





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セイラ2 11章の続き14 [セイラ2]

騒動

 見事、天井歩き亀の雌(?)を捕獲して、一行は意気揚々とセイラの酔い潰れている所に戻った。そして、一行の料理番である、カイが昼食の準備にかかり始めた。


 ホトトギスは、天井歩き亀の雌の首に紐をつけ、その紐を嘴で引っ張り、セイラのところに天井歩き亀を連れて行った。


「セイラ、起きて。天井歩き亀を捕獲したよ。見て、見て。」


 枕元で突如起こったけたたましいばかりの歓声に、セイラは驚いた。しかし、寝惚けているらしく、怪訝そうな表情をして、周囲を見回した後、ホトトギスが陸亀を引っ張っているのが見えた。彼女は、「あんた、その亀をどうしたのよ。まさか、食べるつもりで捕まえてきたんではないでしょうね」と尋ねた。


 ホトトギスは、如何にも心外という表情を浮かべて、こう答えた。


「これは天井歩き亀なんだよ。天然記念物と言うべき、貴重な生物なんだよ。カイのような野蛮人と違って、僕がそんな乱暴なことをするわけがないでしょう。僕は、この学術的にも貴重な、絶滅危惧種の天井歩き亀の繁殖を試みようと思って、捕獲したんだ。幸い、この亀は卵を身篭っているし、産卵させて、その卵を孵化させることが出来る。自然界で産卵し、孵化するより、僕の監視下に置いた方がよほど安全だからね。それに、殆ど生態の全てが闇に包まれている天井歩き亀の生態を調べることも出来るし、見世物にしてお金儲けも出来るじゃない。こんな貴重な存在を、僕が食べたりするわけがないでしょう。」


 ホトトギスの言う通り目の前の亀が本当に幻の「天井歩き亀」であれば、セイラもその言い分に納得したであろう。しかし、クロウリーとは違い、セイラは目の前の亀が何の変哲のない普通の亀であることを知っていた。また、ホトトギスが食いしん坊で底知れない胃袋の持ち主であることを良く知っていた。たとえ、目の前の亀が伝説の「天井歩き亀」であったとしても、食欲に負けて食べてしまうことを、良く知っていた。ホトトギスが良心からそのような殊勝な行動をするなど到底信じられなかった。


「嘘をおっしゃい。あんたは、それを食べるつもりに違いないわ。」


 セイラは、そう断言すると、ホトトギスから亀の手綱を奪い取った。ホトトギスがそのような彼女に抗議しようとすると、憤怒の形相をして睨み据えた。


「あんたは色々と忙しいでしょう。かわりに私がこれを預かって置くわ。何か文句ある。」


 ホトトギスは、セイラの鬼気迫る迫力に押されて、口篭もってしまった。それを認めて、セイラは、天井歩き亀の手綱を引きながら、クロウリーに近寄った。


「クロウリーさん、この亀の管理をお願いします。間違っても、ホトトギスに渡すような真似だけはしないで下さい。」


 自然科学に対する一方ならぬ造詣を有するホトトギスが、学術的に計り知れない価値を有する、しかも、莫大な富を齎すことになるであろう「天井歩き亀」を食べたりすることはあるまいと思うものの、セイラに圧倒されるかたちで、クロウリーは了承した。


 セイラは、クロウリーの首肯するのを見て、昼食の支度の手伝いをするために、カイのところへと向かった。


 一方、ホトトギスは予想外の顛末に臍を踏んだ。人の好いセイラとは異なり、クロウリーは、何事においても疑り深く、慎重な人間である。セイラにああ命じられたなら、自分に天井歩き亀を渡すことはまず考えられない。生命を脅かすような脅迫をすれば、難なく手渡すであろうが、カイ以外の人間には、そのような手荒な真似はしたくなかったし、そんなことをしたら、第一、セイラが許しはしない。いよいよ困ったことになった、とホトトギスは善後策を練り始めた。


 いかに明敏な頭脳を誇るホトトギスも、この問題には、良い方策を思い付かなかった。


「ほら、ご飯よ。」


 混迷が深いために、ホトトギスは昼食の支度が整っていることに気づかなかった。そのために、セイラの呼び声に過剰なまでの反応を示した。彼はびくりと大きく体を反応させると、セイラの方を見た。


「セイラ、びっくりしてしまったな。もう少し優しく呼びかけてくれたらいいじゃない。」


 彼はそう言い終えると、よちよちと歩き、セイラの隣にある自分の席に腰を下ろした。


「何で、私があんたに気を遣わなくちゃいけないのよ。ばかも休み休みに言いなさい。」


 ホトトギスは、頬をほんのりを赤らめ、実に照れくさそうな表情をして、セイラの顔を見上げた。そして、女の子のように消え入るような声で「何故って、決まっているじゃない。そんな恥ずかしいこと、僕の口から言えないよ」と語りかけた。


 恋人だからとか、そのような返事が返ってくるのであろうと心中で大きな嘆息を吐きながら、セイラはホトトギスにその理由を尋ねた。


「その理由を是非知りたいものだわ。言ってもらおうじゃない。」


しかし、ホトトギスは、全く臆する様子を見せることなく、恥ずかしそうに顔を両方の翼で抑えながら、「そんなこと恥ずかしくて、口に出来ないよ。セイラと僕が恋人同士で、将来を契り合った仲だ何て、口が裂けても言えないよ」と臆面もなく答えた。


 ホトトギスの相手をすればするほど腹立たしくなる。セイラは、ホトトギスを黙殺することに決めた。そして、興味なさそうに「あっそう」とだけ言い、ホトトギスから視線を転じた。そして、黙々と料理を食べ始めた。


 セイラが相手をしてくれない。そのことは、ホトトギスにとって、大きな衝撃であった。セイラから、手痛い反撃が来ることを楽しみに待っていただけに、ホトトギスの動揺は大きく、深刻であった。彼は、一体、どうしたのであろう、と思い、セイラの顔を覗き込んだ。しかし、セイラが全く自分の相手をしてくれないので、彼女の気を惹こうと、セイラに声をかけた。


「セイラ、どうしたの、お腹でも痛いの。どっか具合でも悪いんじゃない。」


 やはり、セイラから返答が帰ってくることはなかった。ホトトギスは、ますます、訝った。


「セイラ、何も言ってくれないと、寂しいじゃない。」


 彼は、そう言ってセイラに呼びかけると、「見てよ、見て」と大きな声を上げ、今日発明したばかりの「空腹の舞」を始めた。そして、それを終えると、今度は「歓喜の舞」を始めた。


「ご飯だ、ご飯だ、嬉しいな。ご飯だ、ご飯だ、嬉しいな。」


 空腹の舞とは異なり、本来、歓喜の舞に歌詞などなかったが、ホトトギスは、丸っきり無視を決め込んでいるセイラの関心を惹くために、そう誦しながら、セイラの料理の前で舞をなおも続けた。


 同性であり、健気なホトトギスの努力に感じ入る所があったのであろう、カイがホトトギスの窮状を見兼ねて、セイラに話しかけた。


「姉ちゃん、いい加減に相手してやってよ。埃が立って、迷惑だよ。」


 お気に入りのカイの言葉である。セイラは、彼の言葉を無視することが出来ず、彼の発言を聞き入れた。「分かったから、もう、止めなさい」と、等閑な言葉をホトトギスにかけた。その言葉を耳にして、ホトトギスは、「はーい」と返事をして、舞いを中断した。そして、彼女の隣の席に戻り、昼食を大人しく取り始めた。


 昼食を終え、お茶などを取り、暫し寛いだ後、セイラは、今日の夜に備えて再び眠ろうとした。


「カイ君も、今日の夜に備えて、仮眠をしておいた方がいいわよ。」


 血も何も繋がっていないが、姉らしい思いやりに溢れた助言であった。カイは、「うん」と彼女に気のない返事をした後、これはどういう事なのだ、と目の光でホトトギスに話しかけた。自分が彼女を騙し酔い潰したのも、天井歩き亀の捕獲に協力し、その料理を引き受けたのも、ホトトギスが彼女にそのような暴挙を思い止まらせる、という暗黙の了解があったからである。カイはホトトギスの違約を目で咎めた。


 一方、ホトトギスは、カイの鋭い眼光を一向に意に介することなく、セイラの毛布の中に潜り込んだ。そして、カイに天井歩き亀をクロウリーから奪還することを命じて、セイラとの添い寝を始めた。


ミサイル巡洋艦「モスクワ」 スプートニク [ネムネコの呟き]

ミサイル巡洋艦「モスクワ」
2015年12月25日 18:33



敵の大型艦に対する攻撃、遠隔地の兵団の対空防衛、上陸部隊の火力支援など 空母機動部隊への対抗兵力として構想された。

敵の大型海上艦を攻撃するためのもので、対潜水艦グループの戦闘的安定性を保障する。また遠隔地の兵団の対空防衛や上陸部隊の火力支援なども行う。
ロシア黒海艦隊に属する2隻の一等巡洋艦のうちの一つ。黒海艦隊の旗艦(艦隊司令官が乗る軍艦)でもある。


http://jp.sputniknews.com/infographics/20151225/1369251.html#ixzz3vKalDlEV




セイラ2 11章の続き12 [セイラ2]

 天井歩き亀捕獲作戦

 洞窟の天井を逆さまに歩き、さらにムササビのように滑空できる亀。もし、そのような物が本当にいたとすれば、鈍重な生き物である亀のイメージを一新するだけではなく、自然科学の上で動物の進化論の上で大発見であろう。そのような亀がいれば、これまでの生物学の常識を全て改めなくてはならないような大発見であった。


 好学の徒であるクロウリーは、即座にホトトギスの提案を受け入れた。天井歩き亀を捕獲し、学会に発見すれば、彼の名声は永遠に響き渡ることになるであろう。さらに、そうした学問的な興味だけではなく、それほど珍奇な亀であり、それを見るために大枚をはたく人間がいることは火を見るより明らかであり、いいビジネスにもなる。この話を見逃すなど、出来るはずがなかった。


 一方、カイの方はと言うと、ここの所のあまりに粗末な食事に閉口していた。ホトトギスの場合と違い、自分が調理しているので文句を誰につけるわけにもいかないでいたが、美味しい物を食べたい、という欲求はホトトギスに劣らず持っていた。また、昨夜口にした天井歩き亀の肉は、相当の美味であった。カイとしてもぜひ捕獲をして、ホトトギス同様にそれを食したいと思っていた。


 三人は、天井歩き亀の捕獲のために、洞窟の奥を目指して歩き出した。しかし、身勝手でわがままなホトトギスのことである。朝食の量が普段に比べて少なかったせいもあり、歩き始めて幾らもしないうちにカイに文句をつけ始めた。


 芸達者な彼らしく、節までつけて、カイの耳元で空腹を託った。カイが敢然と無視すると、今度は、踊りまでつけた。ホトトギスは、カイの右肩の上で「空腹の舞」なる物を披露した。それは舞としては、完璧な物であったが、少し物足りなさを感じていた。


 元々。舞いは芸能として発展してきた。神事に纏わる神聖な物であり、さらに、優美の極みとして発展してきた。そのためもあり、空腹を表現するには舞は適切な表現手段ではなかった。ホトトギスは、「どうしたら、よりよく、自分の空腹を表現できるか」についてを考始めた。そして、歌をつける以外に適切な表現手段がないという結論に至った。ホトトギスは、「空腹の舞」を踊りながら、大きな声で歌を歌い始めた。


「腹が減った、腹が減った。腹が減った。このままでは、きっと死んでしまう。」


 耳元で、しかも大きな声で、「空腹の舞」を踊りながら、こう歌われたなら、ホトトギスを無視し続けることは出来なかった。カイは面倒くさそうにホトトギスに目を向けた。


「やい、小僧。腹が減ったぞ、何か食い物を出せ。」


「何を言っているんだ、お前。ついさっき、ご飯を食べたばっかりじゃないか。」


「そんじょそこらの鳥と俺様を一緒にするんじゃない。俺はホトトギス族の王族なんだぞ。あれしきのご飯で満足できるものか。早く、食べ物を出せ。そうでないと、お前を食べてしまうからな。」


 「食べてしまう」というのは冗談であろうが、狂暴で傍若無人なホトトギスのことである。無下に断り続けると何をするか分からない。カイはお昼のお弁当にと思って持ってきたパンを荷物から取り出すと、それをホトトギスに差し出した。ホトトギスは、それを見るなり、凄みのきいた声でカイに「何だ、これは。こんな物を俺様に食べろというのか。馬鹿にするのもいい加減にしろ。こんな物、馬でも食べたりしないぞ」と凄んでみせた。


「わがまま言っても、これしかないんだから、しょうがないだろう。嫌なら、食べるな。」


 長旅のために、食料は徐々に乏しくなっていた。今日明日に払底するというわけではないが、街に戻るまでもつか、実に怪しい状況であった。贅沢を言っていられる状況ではなかった。カイの言葉に嘘偽りはなかった。ホトトギスは、カイの毅然とした表情からそのことを読み取ると、不承不承ではあったが、それを受け取り、口の中に頬張ってみた。


 冬という乾燥しやすい時期であり、しかも購入してから一週間もの時間が経過していた。カチカチに乾燥し、また、風味など何処にもなかった。まるで砂を噛むような、味気無さであった。


 ホトトギスは、「こんな物を食べられるか」と思ったが、本当に何もないのだから、どうしようもなかった。その憂さ晴らしに、カイのかわいらしい額を嘴で思いっきり突ついてやりたい、そんな衝動に駆られたが、しかし、空腹のためにそんな気力さえ起きなかった。彼は、飴でも舐めるように、そのパンをしゃぶり続けた。その甲斐があり、暫くすると、そのパンが潤びてきた。ホトトギスは、唾液を含み、幾分食べやすくなってきたパンを、大人しく食べ始めた。


 そうしたことを繰り返し、少しずつパンを食べていたが、聡明で博識なホトトギスは閃いた。何も自分の唾液で軟らかくする必要はない。水分を含んだ物なら、何でも良いはずだ。彼は、そう思うと、方から掛けていたポシェットの中から、先ほどの宴会であまった葡萄酒を取り出し、それをパンに含ませた。そして、十分に葡萄酒を含んだ所で、それを口にしてみた。彼が思っていた通り、ちょうど良い軟らかさで、しかも、香味が増していた。かちかちに乾燥していたことがこの場合幸いし、何か別なお菓子を食べているような、そんな美味しさを有していた。ホトトギスは、歓喜してそれを食べ始めた。


 えも言われぬ良い匂いを嗅ぎつけ、カイがホトトギスの方に目を転じた。ホトトギスが葡萄酒をパンにつけながら食べているのを見て、二人もそれを食してみたいと思った。カイは「お前一人で食べていないで、少しは、みんなに分け与える気持ちはないのか。これだから、脳みそのない奴は嫌なんだ」とホトトギスを挑発してみた。正攻法で攻めても、ホトトギスは、態度を頑なにするだけで、決して良い方向に向かうことはないから。時には、「そんなに食べたいのなら、これでも食らいやがれ」と声を荒げて、嘴による洗礼を見舞わせることがあったからである。


 しかし、老獪なホトトギスにカイの策謀などが通用するはずがなかった。ホトトギスは、まるで風でも吹くかのように、一向にカイの言葉に耳を傾けようとしなかった。ただひたすら、葡萄酒をパンに降りかけ、葡萄酒パンを食べ続けた。


 やがてカイもその行為の無意味さに気づき、視線を元に戻した。食い意地のはったホトトギスが、セイラ以外の誰にも食料を分け与えたりするはずがないのだから。そんなことは、ホトトギスがセイラ以外の誰かに食べ物をワケ当たるなど、天が地に降ってくるほど、有り得ないことなのだから。カイは、ホトトギスに構わず、先を急いだ。