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ムジナ 第14章の終わり [ムジナの冒険]

 人間にとって、キスは軽い挨拶であり、恋人同士の場合は、誓いや交歓の儀式になる。ある種の鳥の中では、人間と同じように口移しが異性との愛情確認あるいは婚約の儀式である場合もあるが、人間以外の哺乳動物は、まずキスをしない。オコジョが彼女の大胆な行為に驚くのは当然であった。

 仲の良い友達同士で、人間は、今のようにキスをし合うのよ。こんな事で驚くなんて、オコジョはまだまだ子供よね。


 年下でありながら、ムジナは、お姉さんぶって、オコジョの疑問に次のように答えた。


「俺は、てっきり、お前が俺のことを子供扱いし、口移しをしたのかと思ったんだが・・。そういう事なら、まあ良いや。」


 オコジョは、そう言った後、続けて彼女に問い掛けた。


「人間は、何で友達同士で口移しなんて変なことをするんだ。お前に口移しされたから我慢できたけれど、男同士で口移しをする場面を想像するだけで気持ち悪くなりそうだ。」


 オコジョの質問を受け、ムジナは、そうよねと考え始めた。ムジナは、これまで何度も人間がキスをする場面を目にし、キスは挨拶替わりなのだろうと勝手に判断していた。このため、これまで、キスの意味や役割について深く考えたことがなかった。そこで、彼女は、人間がキスをし合う場面を幾つも思い返してみた。


 オコジョに質問され、キスについて改めて考えてみると、口付けをするのは、異性の場合だけで、家族や友人同士では、頬や額などに軽くするように思われた。そのことに気付いた彼女は、頬を真っ赤に染め、どうしましょうと、両方の前肢で口を押さえた。


「急に顔を赤くしたりして、どうしたんだ、お前。熱でもあるんじゃないか。」


 オコジョは、そう言うと、彼女の額に右の前肢を当てた。彼女の体温が平穏であることに安心すると、オコジョは、彼女の額に当てていた彼の右足を徐に下ろした。頬を微かに赤らめ、俯き加減の彼女の顔を改めて見詰めた。


「前からお前はどこかおかしいけれど、今朝は、特に変だぞ。どうしたんだ、」


 今まで知らなかったとは言え、特別な異性に対してだけ、口付けをするのだ、と彼に答えるわけにはいかなかった。ムジナは、彼の視線を感じ、さらに頬を赤らめた。顔から火が出るほどの恥ずかしさであったが、彼女は、気丈に「何でもないわ」と答えると、オコジョの顔を正視した。そして、もう一度オコジョの唇に自分の唇を重ねた。


 これで、お別れよ、オコジョ。私とあんたが運命で結ばれているのなら、また、会うこともあるでしょう。再会を信じ、ここでお別れしましょう。


 いつでもまで経っても、名残は尽きない。お互いにそのことを良く理解していた。オコジョは、コクリと頷き返した後、「お前と俺は運命に結ばれている。また、すぐに会えるさ。じゃあな」と言って、彼女に背を向けて、塒にゆっくりとした足取りで歩き始めた。


 振り返るかもしれない。そして、自分と一緒に王都で生活してくれるかもしれない。


 彼女は、淡い期待を抱きつつ、オコジョの後ろ姿を見詰めていた。後ろ髪を引かれる思いであろうが、オコジョが決して振り返らないことも知っていた。振り返ったら、お互いに別れが辛くなるばかりであることを、彼もまた良く知っているので、彼女の予想した通り、オコジョは振り返らなかった。だが、彼の背中が、時折、小刻みに震えていた。


 オコジョも泣いているんだわ。


 彼女は、鼻水交じりの涙で顔を泣き濡らしながら、そう確信した。「オコジョ」と大きな声を上げて、彼を引き留めたいという強い衝動に何度も襲われながらも、それを抑え続けた。そんな健気な彼女を励ますように、物陰に姿を隠し、二人の別れの場面を観察していた一角大雪兎と超ハイテク算盤が姿を現し、申し合わせたように彼女の両方の肩を同時に軽く叩いた。


「俺たちとオコジョでは、生きる世界があまりに違い過ぎる。早晩、こうなる運命だったんだ。別れたばかりで今は悲しいだろうが、時がお前の心の傷を癒してくれるさ。そして、オコジョと昔こんなことがあったんだと、笑って思い出せる時がやって来るさ。だけれども、今は、思い切り泣け。涙が涸れ果てるまで、泣け。そうすれば、涙が別れの悲しさを洗い流してくれるに違いないから。」


 安物の芝居、恋愛小説から引用したような一角大雪兎の台詞であった。一方、超ハイテク算盤が彼女にかけた言葉は、それとは正反対と言える残酷なものであった。


「自分の無能さに気付いていてもなおリーダーの座を俺に渡そうとしない我が侭で勝手なムジナであるお前にオコジョが愛想を尽かすのはもっともであろう。オコジョを引き戻したいのなら、まず、お前のその身勝手な性格を直さなければならない。手始めとして、有能である俺にリーダーの座を渡すことだ。そうすれば、勝手なお前の性格が少し良くなったと考え、お前の大好きなオコジョがスケベ面をして戻ってくるかもしれない。」


 算盤は、泣きじゃくっている彼女にそう告げた後、彼女の足元に一枚の書面を置き、彼の手と言えるセンサーでその書面の一部を指し示した。


「これは、有能な超ハイテク算盤にリーダーの座を渡しますという委任状だ。ここに、お前の足跡をペタンと押すだけでいい。それだけで、お前の大好きなオコジョが戻ってくるにちがいない。何も考えることはない。ペタンとここに足跡を付けるんだ。」


 涙交じりの鼻汁を滴らせながら、ムジナは超ハイテク算盤を横睨みした。


 オコジョは、私の性格を含め、私の全てを愛してくれていたわ。私も、オコジョの悪戯っ子のような子供じみた性格を愛していたのよ。それなのに、どうして、私の性格を直さなければいけないのよ。


第36回 反転2 [ネコ騙し数学]

第36回 反転2


原点OOとは異なる点Pがあるとする。このとき、半直線OP上に
  

となる点Qをとる。これが反転。

Pと点Qの座標をP(x,y)Q(X,Y)とすると、

  

という対応関係がある。

前回、原点Oを通る直線についてやらなかったので、ここから始めることにする。


原点を通る直線は

  ax+by=0

になるので、この直線は③より

  

となり、反転によって同じ直線ax+by=0に移されることがわかる。

前回、反転によって、原点を通らない直線は原点を通る円(原点は除く)に、原点を通る直線は原点を通らない直線に変換されることは示した。


なので、反転によって原点を通らない円がどのような図形に変換されるのか調べてみることにする。計算を簡単にするために反転の半径r=1とする。

中心(a,b)、半径kの円の方程式は

  

この円は原点を通らないので

  

r=1のとき

  

という対応関係があるので、

  

計算を簡単にするために

  

とおくことにする。

  

よって、原点を通らない円になる。

何故、原点を通らないかというと、(X,Y)=(0,0)を代入すると

  

となり、a²+b²<>k²だから、右辺と左辺が一致しなことからわかる。

問題

座標平面上の直線x+y=4上の任意の点Pと原点Oを通る直線が円x²+y²−x−y=0と交わるO以外の点をQとするとき、

  

が一定であることを証明し、この一定値を求めよ。

この問題を解く気はない。

OPOQ=4として、x+y=4上の点を反転させて得られる図形が

  

このことは、r=2の時の反転の変換式

  

を使うと、

  

となることすぐに確かめられる。

shotou-36-01.png

【解】

P(α,β)とすると、Pは直線x+y=4上の点なので

  α+β=4

よって、直線OPの方程式は

  

Qはこの直線とx²+y²−x−y=0の交点なので

  

Qは原点とは異なる点なのでx≠0

したがって、

  

よって、

  

となり、OPOQは一定値で、その値は4である。

(解答終わり)


(※)

  


タグ:初等幾何

今日のクラシック、ギヤ・カンチェリ作曲 交響曲第5番 『わが両親の思い出に』 [今日のクラシック]

今日のクラシックは、
ギヤ・カンチェリ作曲 交響曲第5番 『わが両親の思い出に』
です。

ネムネコの秘密の情報網から仕入れたグルジアの現代音楽の作曲家の作品。
緊密な構成で、しかも、劇的、そして、緊張感に満ちた名曲だと思う。
是非、聞いて欲しいと思う。



この曲↑は、一応、ミニマル・ミュージックに分類されるようだ。
しかし、ミニマルミュージック的というよりは、旧ソ連的、社会主義時代のソ連の音楽的要素を色濃く持った作品のように思う。
この曲を聞いて、何気なく「プロコフィエフに似ているな」と思った。
音色の色彩感が似ているように感じられ、プロコフィエフのこの曲↓が頭に浮かんできた。



このカンチェリの交響曲第5番『わが両親の思い出に」は、掛け値なしの名曲だと思うよ。
一聴の価値がある曲だと思うので、是非、聞いて欲しいにゃ。


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ムジナの冒険 14章の続き8 [ムジナの冒険]

「重たいだろうが。早く俺の体からどきやがれ。」


 聞き覚えのあるオコジョの威勢の良い怒鳴り声で、ムジナは目を覚ました。そして、オコジョが彼女の体の下敷きになり苦しそうにもがいているのを見て、驚いた表情を浮かべた。


 父ちゃんのかわりに、どうして、オコジョが私の下敷きになっているの。変よ、変。絶対に変よ。


 狐にでも摘ままれたような彼女が表情を浮かべているのを見詰めながら、オコジョが何度も「早く俺の体からどけよ」とあげる大声で我を取り戻したムジナは、慌てて彼の体から飛び退いた。


「お前の寝相が悪いのは知っていたが、今日のは最大級だな。何で、俺を下敷きにしたんだ。」


 ゾンビのように死んでもなお復活を遂げるホトトギスの復活を阻止するかのように体を重しにし、彼女は昨晩眠りに就いたのであった。彼女の全体重をかけられ、体の至る所が痛むのであろう、オコジョが体の具合を確かめながらそう尋ねてきた。現状から判断するに、父親であるホトトギスとの遣り取りの一部始終は夢であったのかもしれないと結論づける以外なかった。ムジナは、夢だったのかしらと思いながら、申しわけ程度に「ゴメン」と小さな声で謝った。そして、彼に奇妙な自分の夢について話し始めた。


 そういうわけよ。


 彼女は、そう言って、話を締め括った。しかし、その話をまったく信用していないのであろう、オコジョが不信感を露にして自分の顔を横睨みしていた。その刺すような彼の非難の眼差しを感じつつも、ムジナは新たな疑問を彼に提示した。


 あんた、本当にオコジョなの。父ちゃんじゃないの。


 彼女は、そう叫ぶと、彼の体に再び覆い被さった。そして、嗅ぎ慣れた彼の毛皮の匂いに気付き、彼が本物であることを確認した。それから、「ごめん」ともう一度謝って、緩慢な動きで彼の体から離れた。


「信じられん。」


 眠っている時に彼の体の上に乗ったことは寝相の悪い彼女のことであるから許すことが出来る。しかし、今の彼女の行動は許すことが出来なかった。オコジョは鋭い眼光でムジナを睨み付けた。さしものムジナも彼の白眼視には耐えられなかったようで、前肢でもじもじしながら、ばつの悪い表情を浮かべた。


 さっき、話したでしょう。私の父ちゃんが昨日オコジョに変装したのよ。で、ひょっとしたら、今もあんたに変身しているんじゃないかと思ったの。だから、そんなに怒らないでよ。オコジョは怒っているより笑っている方が素敵なんだから。


 ムジナのもじもじとする仕種を目にし勘違いしたのであろう、オコジョが、ハハーンと言う表情を浮かべ、「さては、俺との別れが悲しくて、何だかんだ言っているんだな。ならば、回りくどい真似をしないで、『オコジョのことを愛しているわ。私は、オコジョと別れられない』と言えばいいじゃないか。鼬界一の美男子の俺と別れ難いがたいのは、当然と言えば当然だがな」と、意味深なことを言った。


 折り重なるようにいつも体を寄せ合い、毎晩、ムジナとオコジョは眠っていた。文字通り肌を重ねてきたオコジョとの別れのことを考えると、ムジナは身を切られるほど辛かった。出来ることなら、いつまでも彼とこうして暮らしていたい。しかし、それは叶えられない願いであった。


 生まれたのは南海の孤島で、渡り鳥以外、外部から島に訪れる存在はいなかった。彼女は、そうした所で生まれたのだ。その後、ホトトギスの養女になり、王都での都市生活を始め、今では、それにすっかり馴致してしまっていたが、生まれが野生なので、ごく普通のムジナがそうであるように森の中で生き抜く智慧も力も有している。しかし、快適な都市生活を送っているムジナにとって、ミルクココアや飴玉のない森の生活に戻るなどなど論外であった。大好きなオコジョとこうして楽しく暮らせるとしても、ミルクココアと飴玉のない生活など考えられなかったのだ。オコジョが自分と同じように神殿で生活するのなら、末永く彼と暮らすことも可能であったかもしれない。しかし、彼女とは異なり、オコジョは自然に包まれているこの森の生活を捨てることは出来ないであろう。二人がどれほど愛し合っていようが、ライフスタイルの相異する二人が結び合うことは叶わぬ願いであったのだ。ムジナとオコジョは、互いに口には出さないが、そのことを良く知っていた。


 私には虎のおじちゃんと言う将来を誓った相手がいるのよ。兎に藍染めされるようなお馬鹿なオコジョに未練はないわ。ちょっと顔がいいくらいで好い気になるんじゃないわよ。あんたなんか虎のおじちゃんに比べれば、月と鼈よ。


 彼女は、これ以上ないほど口を大きく開き、彼の己惚れに呆れたという表情を浮かべ、言外にそのことを伝えた後、ゆっくりと彼に近付き、小さい彼の可愛らしい顔を覗き込んだ。


 いつもとは違う彼女の真面目な表情にオコジョは驚いた様子を見せたが、陽気で口の悪い彼らしく、「俺は鼬界一の美男子だから、見惚れるなのは当然だな」と、いつもの軽口を口にしようとした。その瞬間、ムジナが彼の唇に自分の唇を軽く重ねて、その口を塞いでしまった。


第35回 反転 [ネコ騙し数学]

第35回 反転


§1 反転とは

中心O、半径rの円がある。Oとは異なる点Pを、半直線OP上にあり

  

を満たす点Qに移す。この変換を反転といい、Oを反転の中心、rを反転の半径という。

shotou-35-01.png

Pが円Oの内部にあるとき、すなわち、OP<rのとき

  

になるので、Qは円Oの外部にある。

Pが円周上にあるとき、つまり、OP=rのとき

  

なので、P=Qになる。

さらに、Pが円の外部にあるとき、OP>rのとき

  

になり、Qは円の内部にある。

反転円(反転の半径r)の中心O(0,0)、さらに点PQの座標をそれぞれP(x,y)Q(X,Y)とする。

Qは半直線OP上にあるので、ベクトルで書くと

  

となる実数kが存在する。

座標で書くと

  

となる。

  

よって、
  shotou-35-siki-01.png

したがって、

  shotou-35-siki-02.png

また、

  

とおき、同様の議論をすると、

  shotou-35-siki-10.png

という変換式が得られる。

反転によるPからQへの移動を
  

であらわすとすると、②が変換式になる。

また、②と③を使って反転の反転を実際に計算してみると、

  
となり、反転の反転は自分自身であることがわかる。

反転の定義式

からこのことはほとんど明らかなのだけれど、こういう関係がある。

 


§2 問題


抽象的な話をしてもピンとこないと思うので、次の問題を解いてみることにする。


問題1

座標平面上の点(1,0)を中心とし、半径2の円をCとする。座標平面上の円Cの外側にある点Pと原点Oを結ぶ線分が、円Cの周と交わる点をQとし、

  

f(P)であらわす。

(1) Pの座標が(4,2√3)であるとき、f(P)の値を求めよ。

(2) f(P)=3となるような点Pの軌跡の方程式を求めよ。

【解】

(1) 点(1,0)を中心とする半径2の円Cの方程式は

  

Q(x,y)とすると

  

より、
  shotou-35-siki-04.png

Qは、円Cの円周上にあるので

  shotou-35-siki-05.png

k>0なので、k=2


(2) 点Pと点Qの座標を(X,Y)(x,y)とする。

f(P)=3なので

  shotou-35-siki-11.png

Qは円Cの円周上の点なので

  

よって、

  

よって、

  

(解答終わり)

最後で、さり気なく(X,Y)(x,y)にすり替えるのがポイント(^^)


この問題の(1)の場合、

  shotou-35-siki-06.png

となり、反転円は原点Oを中心とする半径√14の円

  

であることがわかる。
shotou-35-02.png


問題2

xy平面上の原点O以外の点P(x,y)に対して、点Qを次の条件(A),(B)を満たす平面上の点とする。
 (A) 点Qは、原点Oを始点とする半直線OP上にある。
 (B) 線分OPの長さと線分OQの長さの積は1である。

問1 点Qの座標をxyを用いて表せ。

問2 点Pが円(x-1)²+(y-1)²=2上の原点以外の点を動くときの点Qの軌跡を求め平面上に図示しなさい。

【解】

(1) OPOQ=1=r²なので、反転円の半径r=1

①より

  


(2) Q(X,Y)とすると②より

  

これを

  

に代入する。点Pは原点以外の円周上の点なので、⑨より

  

よって、
  shotou-35-siki-07.png

ここで、さり気なくXYxyにすり替えて

  

が求める軌跡ということになる。
shotou-35-03.png

(解答終わり)


紫色の点が点Pの単位円に関する反転によって得られる点。

また、Qに対する反転はPになるので

  

を反転して得られる図形(反形)が

  

になる。

ここから一般論にもってゆくのは危険なのですが、このことから原点を通る円(原点は除く)の反形は原点を通る直線に、原点を通る直線(原点は除く)の反形が原点を通る円になることを理解してもらえるのではないか。


一般論は

  shotou-35-siki-08.png

ただし、原点は除くとすればいいにゃ。

原点を通る直線は、反転の定義から、それ自身に映ることは明らか。

原点を通らない円については次回ということで。


タグ:初等幾何

ムジナの冒険 14章の続き7 [ムジナの冒険]

 ムジナは、オコジョをどこに隠したのか、その居所を突き止めるために、執拗にホトトギスに詰め寄った。しかし、ホトトギスは、「さあな」と惚けた表情を浮かべるだけで、オコジョの幽閉場所を結局彼女に教えなかった。強情な父親の口を割ることは不可能と判断したのであろう。ムジナは、わざとらしく大きな溜め息を一つ吐いてから、ホトトギスの惚けた顔を正視した。

 オコジョの居所を教えてくれないのは、分かったわ。だから、オコジョの幽閉場所については質問しない。その代わり、この質問にだけは答えてよ、父ちゃん。父ちゃんだって、このまま私にうるさく付き纏われるのは嫌でしょう。


「俺から言質を取ろうなど、百億万年早い。まあ、そのことは不問に付してやろう。それで、お前は何を聞きたいのだ。差し支えのない範囲で答えてやろう。」


 ライバルと言えるカイを陥れる計略をいつも練っているホトトギスらしい言葉であった。ムジナは、今更ながらに父親の悪辣非道ぶりに呆れつつ、彼にこう尋ねた。


 父ちゃん、オコジョは無事なのでしょう。明日の朝には、オコジョを返してくれるのでしょう。


「一度に二つの質問をするとは、ルール違反ではないか。まあ、いい。」


 ホトトギスは、呟くように小さな声でムジナにそう言った後、珍しくまともに彼女の質問に答えた。


「オコジョは無事だ。しかし、お前が逆立ちしてもいけない所で奴は今死んだように眠っている。明日の朝になれば、きっと意識を取り戻し、お前の前に姿を見せるであろうな。」


 ホトトギスが彼女の質問に珍しく答えたのは、明日の朝、彼女がオコジョと別れることを知っていたからだ。報われることのない二人の恋を悲観し、ひょっとしたら、駆け落ちをするのでは、心中をするのではと、これまで片時も気の休まらなかったホトトギスは、ムジナとオコジョの訣別が不可避であり、二人がどう抗おうと変えられない運命であることに気を好くし、当たり障りのない範囲で彼女の質問に答えたのであった。


 父ちゃん、オコジョの毛皮をセイラお姉ちゃんの襟巻きなんかにしようと企んでいるじゃないでしょうね。だとしたら、私は父ちゃんのことを絶対に許さないから。


 ムジナは、自分の懸念を素直に口にしただけであった。だが、彼女のその行動は薮蛇であった。彼女のその話を聞くと、ホトトギスは不敵な笑みを浮かべた。


「クロテンやラッコほどには珍重されないが、オコジョも同じ鼬の仲間だな。このことに思い至らなかったとは、商売人として失格の烙印をおされてもしょうがない。だから、ここは、お前の助言に従い、あのオコジョの毛皮を剥ぐことにしようか。」


 いかなる理由があろうが、ホトトギスは無益な殺生を行わない。生き物は生まれ変わり死に変わる。宇宙の終焉まで、生き物は輪廻転生を繰り返す。だが、輪廻転生を繰り返す主体は仮に同一だとしても、様々な偶発的な条件が複雑に絡まり合い、現在の生を得るのだ。その時々、その生命の形態は変わっており、どれ一つとして同じ物はない。それ故に、命は重要なのだ。一方、ホトトギスは、宇宙が終焉を迎えるその瞬間まで、死ぬことはない。その意味において、彼は、神々と同じく不死の存在であった。だが、それ故に、生まれ変わり、死に変わる、極ありふれた命の尊さを、それが、どれ一つとして互換のきかない唯一絶対の存在であることを、ホトトギスは誰よりも良く理解していた。だから、彼は、よほどの理由がない限り、貴重な生命を奪うことはしなかった。


 しかし、問題なのは、よほどの理由のほうであった。その時々の命を、ホトトギスは尊重していた。このことは確かである。しかし、同時に、ホトトギスは、この世の本来の住民ではなく、この世の道徳、倫理、価値観などに縛られていなかった。そして、時に、己の快楽、愉悦感と言った、全く個人的な自身の感情が他者の生命の尊厳に勝ることがあった。セイラが彼を無視したりすると、彼女の注意を自分に惹き付けるために、あるいは、無視された腹いせのために、ホトトギスは、わけもなく、嘴から巨大な炎を吐き、何の躊躇もなく、その炎の先にある昆虫や微生物などを大量に焼き殺していた。まして今回は、娘であるムジナの恋心を奪うだけではなく、その存在を彼から奪い取るかもしれないオコジョが相手である。オコジョの抹殺をはかろうとしても何の不思議もなかった。


 ムジナは、自分の失言に気付き、慌てて右の前肢で自分の口を塞いだ。しかし、既に遅かった。彼女の見ている前で、ホトトギスは、肩からかけているポシェットの中から、古代人が石器に良く使用した、しかし、人間が人工的に作るいかなる刃物よりも鋭い切れ味を有している黒曜石で作ったナイフを取り出した。そして、これ見よがしに、その刃先を舌でペロペロと舐め始めた。


 オコジョの毛皮を剥ぐために、その黒曜石のナイフを使用する心算なのかもしれない。その切れ味を試すために、ホトトギスは黒曜石のナイフの刃先を舐めているのであろう。そして、ホトトギスはそのナイフの恐るべき切れ味を我が身を以って経験することになった。


 父ちゃん、舌から血がだらだらと垂れているよ。父ちゃん、大丈夫なの。


 それまで自分の口を抑えていた右の前肢で、ムジナは彼の舌を指差し、彼にそのことを指摘した。これがごく普通のありふれた親子であったならば、ムジナは彼の怪我の具合を心配し、恐る恐る尋ねるであろう。しかし、彼女の父親であるホトトギスは、殺しても死なない存在であった。そのことを良く知るムジナは、至って淡々とした口調で事実だけを彼に指摘した。


 一方、彼女からその指摘を受けたホトトギスは、自分を脅かすためにそのような埒のないことを言っているのであろうと考え、彼女の話を真に受けようとしなかった。そして、彼は「そんな威しが父ちゃんに通用するものか。嘘を吐くのなら、もっと上手い奴を考えないといけない」と言いたそうな表情をして、小馬鹿にした様子で彼女を横睨みした。ホトトギスがそうしている間にも、大量の血液が舌の傷口から勢い良く流れ出していた。そして、彼は、血液の大部分を流出し、すぐに意識が混濁し、その場に卒倒してしまった。


 一方、ムジナは、嘴から倒れ込み、その嘴を地面に深々と突き刺している彼の姿を暫く遠巻きに観察していた。


 ホトトギスがゾンビのように蘇るのを恐れたためである。彼の身を心配して近付いたら、どうせいつものように、ゾンビのように蘇り、自分を脅かすに違いないと考え、彼女は注意深く彼の様子を窺った。観察の結果、彼がすぐには蘇生できないと判断し、それでも、彼女は、不測の事態に備えて、用心深く一歩一歩ゆっくりと足を進めた。


 延ばせば前肢が届きそうな所まで達した時、彼女は、その場に立ち止まり、地面に嘴を突き刺したままピクリとも動かないホトトギスの様子を再び観察し始めた。注意深く一、二分ほど観察した後、彼が絶命していると判断し、そのことを確かめるために、恐る恐る右の前肢を彼の体に差し延ばした。


 どうせ、あと一センチで前足が達するというときに、大きな声を出して、私を脅かそうとするに違いないわ。注意しないと。


 ムジナはそう考え、今にも触れようとしている右の前肢を一旦制止させた。それから、彼女は、生唾をごくりとゆっくり飲み干し、覚悟を決めて右の前肢で軽く彼の体を突ついてみた。


「俺が死んだと思ったか、この馬鹿が。これくらいのことで俺が死ぬものか。」


 普段なら、そう叫ぶのと同時に体を起き上がらせ、彼女の心胆を寒からしめたのを確認してから、カンラカンラと高笑いをするのであろう。しかし、この時のホトトギスはピクリとも動かなかった。彼が何の反応も示さないことを訝りつつ、父ちゃんは本当に死んだのかしらと考え始めた。


 ゾンビのように殺しても死なない父ちゃんだもの。生き返るのは時間の問題ね。生き返ったら、何かと面倒だし、どうようかしら。


 ムジナは、引っ込めた右の前肢を再び延ばし、彼の遺骸を触りながら、その善後策について考え始めた。しかし、適切な対処法を思い付かず、あれこれかと逡巡している間にも、一旦生気を失ったホトトギスの体に温かさが戻りはじめ、それと同時に、それまでピクリとも動かなかった彼の筋肉がピクピクと小刻みに震え始めてきた。


 彼女の予想していた通り、だが、彼女の予期していたよりだいぶ時間的に早かった。絶命した肉親が蘇生するのだから、本来ならば、感涙に噎んだり、欣喜雀躍して復活を喜ぶのであろう。しかし、今の彼女にとり、あまりに早い彼の復活は忌まわしい出来事であった。


 父ちゃんはなんてしぶといの。もう少し死んでいてくれてもいいでしょうに


 ムジナは、そう毒突きながら、しっかりと彼の体を口に銜えると、深々と突き刺さっている彼の嘴を地面から勢い良く引き抜いた。それから、忌々しげに彼の体に深々と犬歯を突き立て、それを銜えたまま塒である大きな空(うろ)に戻った。そして、彼女は、復活後に身動きを取れないように、彼の体を自分の下に敷き、安心をしたようにすやすやと眠り始めた。



第34回 問題演習 [ネコ騙し数学]

第34回 問題演習


円周角の定理や方べきの定理を使って解く問題の追加。


問題1

ABCの頂点Aより辺BCにおろした垂線をAH、外心をOAOと△ABCの外接円の交点をDとするとき、次のことを証明せよ。

(1) ∠BAD=∠CAH

(2) ABAC=ADAH

【解】
shotou-34-01.png

(1) △ABDと△AHCにおいて、

問題の条件より

  ∠AHC=∠R

ABは直径なので

  ∠ABD=∠R

同じ弧ABの円周角なので

  ∠ADB=ACB=∠ACH

よって、

  ∠BAD=∠CAH

(2) (1)より△ABD∽△AHC

  


問題2 (ブラマーグプタの定理)

円に内接する四角形ABCDの対角線が直交するとき、その交点をEとすれば

(1) Eから辺CDへおろした垂線は、対辺の中点を通る。

(2) 逆に、Eを辺ABの中点を結ぶ直線は、対辺CDに垂直である。
shotou-34-02.png
【証明】(1) △CEDと△EHDに注目。∠CEDは共通、また

  ∠CED=∠EHD=∠R

なので、

  ∠DHE=∠ACD

また、対頂角相等より

  ∠MEB=∠DHE=∠ACD

同じ弧ADの円周角なので

  ∠ABD=∠ACD=∠MEB

よって、

  MB=ME

ABEは∠AEB=∠Rの直角三角形なので

  AM=MB=ME

よって、EHABの中点Mを通る。

(2) ABの中点をMとし、MEの延長とCDの交点をHとする。

Mは直角三角形ABEの中点なので、

  AM=MB=ME

よって、

  ∠ABE=∠BEM

対頂角相等より

  ∠DEH=∠BEM=∠ABE=∠ABD

同じ弧ADの円周角なので

  ∠ECD=∠ACD=∠ABD=∠DEH

EDCは共通なので△DEH∽△DCE

よって、

  ∠DHE=∠DBC=∠R

したがって、EM⊥CDである。

(証明終わり)

ちなみに、円に内接する四角形ABCDの各辺の長さをAB=aBC=bCD=cDA=d、さらに

  

とするとき、円に内接する四角形ABCDの面積S

  

に等しい。

この公式をブラマーグプタの公式という。


問題3 上記のブラマーグプタの公式を証明せよ。

【証明】
shotou-34-04.png

  shotou-34-siki-02.png

よって、四角形ABCDの面積S
  shotou-34-siki-03.png
余弦定理より

  

ここで技を使って

 

ここで辺々を掛け合わせる。
  

①と②より

  
(証明終わり)


ブラマーグプタの公式が使えるのは、円に内接する四角形の場合だけ。一般の四角形には使えないので、注意が必要。

 


問題4

ABCの∠Aの2等分線と外接円が交わる点をEとする。BC=aCA=bAB=cとし、AEの長さを求めよ。

【解】

shotou-34-03.png
AD
の延長と円の交点をEとする。

ADは∠Aの二等分線なので、点DBC

  

に内分する。

よって、

  

ABDと△AECに注目。

同じ弧ACの円周角なので

  ∠ABD=∠ABC=∠AEC

また

  ∠BAD=∠EAC

よって、△ABD∽△AEC

  

方べきの定理より

  

AB=cAC=b、①、③、④から

  

②より

  

(解答終わり)

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ムジナの冒険 14章の続き6 [ムジナの冒険]

 意外に早くオコジョのことを諦めたようだな。


 塒(ねぐら)にすごすごと戻っていくムジナの後ろ姿を横目に挟み、ホトトギスは、そう思った。寒い時期、外出の際に必ず着用する毛糸の帽子とマフラー、足全体を包むハイソックスのような長い靴下を身に付けているために、夏鳥でありながら、彼は寒さを感じることがなかった。そこで、風流心を起こしホトトギスは、古の歌詠みたちから、凄まじき物の一例としてあげられている、冬の寒々とした月空を眺め始めた。


 驚いたことに、オコジョのことをすっかり観念したと思っていたムジナが、澄み渡る夜空に冷たい蒼い光を発している月に見惚れている彼の前に再び姿を現し、「父ちゃん」と言って、彼の前に何かを降ろした。


 父の日までにはまだだいぶ日がある。なのに、何故、俺にプレゼントするのだろうか。それにしても、けちなムジナが俺に物をくれるとは、珍しいこともあるものだ。


 ホトトギスは、そのことを怪訝に思いながら、視線を足元に向けた。自分の足元に見たことのない奇妙な魚が置かれているのを目にし、唖然とした。


「この魚をどうやって手に入れたんだ。」


 驚きのあまりに、ついつい、口調が詰問調になってしまっていた。しかし、ムジナは怯んだ気色を見せることなくそれを入手した経緯の説明を始めた。


 蝙蝠のおじちゃんの所に薬を届けに行く途中に、鯱(しゃち)の群れとあったのよ。父ちゃんのことをいつもボール替わりにしていた、あのお転婆鯱が、父ちゃんに宜しくって、これを渡してくれたの。


 半年以上前のことであるが、彼が船旅をしている時に、ひょんな縁から鯱たちと知り合いになった。鯱は、海の殺し屋と一般に恐れられているが、悪戯好きの、愛情深い高等知性体であった。知識としてではなく、彼の一人娘であるムジナ以上にお転婆娘である一頭の鯱の毬替わりにさるという経験を通じ、ホトトギスはこのことをよく理解していた。彼は、悪戯好きなあのお転婆鯱の人懐こい姿を思い出しながら、「随分と洒落たことをしやがる」と呟いた。その時のことである、ムジナがその魚の上に覆い被さった。


 父ちゃん、この魚が欲しかったら、オコジョの居場所を教えなさいよ。じゃないと、これは永遠に父ちゃんの物にはならないわ。


 暴力では解決をはかれないと気付き、今度は知略を巡らす。短い期間であったが、それは今回の旅の成果と言えるであろう。しかし、所詮は、お馬鹿なムジナの浅知恵であった、ライバルであるカイを貶めるために悪辣な陰謀を毎日練り続けているホトトギスの敵ではなかった。ホトトギスは、右の羽であらぬ方向を指し示しと、突然「あれは何だ」と大きな声を上げた。


「何か忘れ物でもしたのであろうか。象蝿の背中に乗った虎がこっちにやって来るではないか。一体、何しにやって来るのだろう。ひょっとしたら、お前に逢いにやってきたのかもしれないな。」


 何かを食べている時以外には、寝ても覚めても、虎のおじちゃんという言葉を口にし、自分が虎のお嫁さんになる姿を夢想し、その小さな胸を熱くしていたムジナである。ホトトギスのこの言葉を無視できる筈がないように思われた。しかし、ムジナは、魚の上に覆い被さったままで、彼の指し示している方向に見向きもしなかった。


 どうせ、いつもの出任せでしょう。そんな子供騙しの嘘で私は騙されないわ。


 ホトトギスは、彼女が牙を剥き出しにして睨み付けているのを見て、短い期間に随分と大人になったものだと一瞬だけ感心した。しかし、すぐさま別な疑問が彼の頭に浮かんできた。彼は、その真偽を確かめるために、再び有らぬ方向を指し示し、わざとらしい大声を上げた。


「雪解けの時期にならなければ、出て来られないように閉じ込めておいたはずなのに、オコジョめ、どうやって抜け出てきやがったんだ。今度こそ、二度と出てこられないように、押し込めなければ。」


 虎の話には反応を示さなかったムジナであったが、予想通りに、彼のその話に強く反応し、ホトトギスが指し示す方向に視線を向けた。ホトトギスは、彼女のその姿を目にし、苛立ちを募らせた。


 それは、彼女が生物学上の女から真の意味での女へと成長している証(あかし)であった。この事実を眼前に突き付けられ、ホトトギスは少なからず動揺した。しかし、ホトトギスはホトトギスであった。娘であるホトトギス以上に食い意地の張っている彼は、ムジナの注意が魚から逸れた瞬間、ムジナのお尻を蹴飛ばすと、雪原の上に大の字になっているムジナに構うことなく、その珍しい魚を両方の翼でしっかりと抱え持つやいなや、鶏や千鳥を彷彿させる素晴らしいスピードで走り出し、そのまま木を上り始めた。ムジナである彼女が辿り着けない細い枝にまで到達すると、ホトトギスはようやく安心した表情を浮かべ、大の字になりながら彼のその行動に呆れた様子で見上げているムジナの姿を見下ろし、こう言い放った。


「お馬鹿なお前が俺様を出し抜こうなど、百億万年、早いわ。」


 眼下のムジナを見下ろしながら、そう言って高笑いした後、珍しいその魚を悠然と食べ始めた。


第33回 方べきの定理の問題 [ネコ騙し数学]

第33回 方べきの定理の問題


第33回で出てきた方べきの定理、方べきの定理の逆を使って解く問題を解くことによって、方べきの定理とその逆の理解を深めることを目的とする。


前回の復習をかねて、方べきの定理とその逆を再掲します。


定理 (方べきの定理Ⅰ)

円の2つの弦ABCDまたはその延長の交点をPとすると

  

shotou-32-02.jpg shotou-32-01.png
定理 (方べきの定理Ⅰの逆)2つの線分ABCDまたはそれらの延長が点Pで交わるとき、
  

であるならば、4点ABCDは同一円周上にある。

定理 (方べきの定理Ⅱ

Oの外部の点Pから円Oに引いた接線をTとする。Pを通り円Oに2点ABと交わる直線を引くと

  

shotou-32-03.png


定理 (方べきの定理Ⅱの逆)

1直線上にない3点ABTおよび線分ABの延長上に点Pがあって

  

ならば、PTABTを通る円に接する。

 


では、問題。


問題1

次の図のように、点Tで外接する2円がある。
shotou-33-00.png

この点における2円の共通接線上に点Pをとり、Pを通る2直線が2円とそれぞれ2点ABCDで交わっている。

このとき、4ABCDは同一円周上にあることを証明せよ。

【証明】

方べきの定理Ⅱから

  

方べきの定理Ⅰの逆より、4点ABCDは同一円周上にある。

(証明終わり)


問題2

Oを中心とする半径2の円内の点Pを通って引いた弦ABについて

  

のとき、線分OPの長さを求めよ。
shotou-33-01.png

【解】

円内の点Pを通る直径をひき、直径の両端をCDとする。

OP=xとすると、 CP=2−xPD=2+xとなる。

方べきの定理より

  

よって、OP=√3

(解答終わり)


問題2をより一般化すると、次の問題になる。


問題3

中心O、半径rの円と1点Pがある。Pを通る直線がこの円と交わる点をABとするとき、

  

であることを証明せよ。

【証明】

Pを通る直径をひく。

(1) Pが円の内部にある場合
shotou-33-03.png

方べきの定理より

  


(2) Pが円の外にある場合
shotou-33-04.png

方べきの定理より

  


(3) Pが円周上にあるとき、このとき、PA=0またはPB=0。また、PO=rなので

  

となり、成立。

(1)、(2)、(3)より

  

(証明終わり)

問題4

ABCにおいて∠A=2∠Bならば

であることを示せ。

【証明】

BAの延長上にAC=ADとなる点をとる。
shotou-33-02.png

AC=ADなので△ACDは2等辺三角形。よって

  ∠ACD=∠D

また、△ACDの内角と外角の関係より

  ∠BAC=2∠ACD  ①

また、問題の条件より

  

①と②より

  ∠ACD=∠D=∠B

よって、接弦定理の逆よりCDは円のCにおける接線である。

また、∠D=∠Aなので

  BC=CD

方べきの定理Ⅱを使うと

  

AD=ACCD=BCなので

  

(証明終わり)

 


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ムジナの冒険 14章の続き5 [ムジナの冒険]

 明日の朝には別れなければならない。ムジナとオコジョは、そのことを良く知っていた。しかし、これまでの長旅の疲れのために、いつものように体を寄せ合い、抱き合うようにして眠り始めた。眠り始めてから、どれくらいの時間が経過したときであろう。ムジナは、喉の渇きを覚え、真夜中に目を覚ました。

 彼女は、前肢で目を眠い目を何度か擦ってから、ゆっくりと体を起き上がらせた。その時、それまで静かな寝息を立てていたオコジョが突然寝返りを打った。彼女は、オコジョの突然の寝返りに驚き、体をピクリと強く反応させた。


 突然、寝返り打つんだもん。びっくりするじゃない。


 ムジナは、そう思いながら、暢気そうな顔をして眠っているオコジョの顔を覗き込んだ。


 鼬界一の色男とオコジョが豪語するだけのことはある、オコジョの寝顔は実に愛らしかった。彼女は、暫く彼の寝顔を凝視した後、枕元に置いてある水差しの水を一口二口飲んで、喉の渇きを癒した。それから、彼女は、明日の朝に別れなければならないオコジョの顔を再び見詰め始めた。


 本当、かわいい顔をしているわね。思わずむしゃぶりつきたくなるわ。舐めたら、怒るかしら、オコジョ。


 彼女は、母性本能を擽るような愛くるしい、その癖どこか悪戯好きな少年のような印象を与えるオコジョの顔を舐めるべきかどうか真剣に考え始めた。しかし、魂の奥底から沸き上がってくるような欲求に逆らえないらしく、ムジナは、「顔を少し舐めたくらいのことで、オコジョは怒らないわよね」と自分に何度も言い聞かせた後、恐る恐るオコジョの寝顔に口を近付けた。


 オコジョに気付かれないように、細心の注意を払ったつもりであった。しかし、興奮のあまり鼻息が荒くなったのであろうか、それまで静かな寝息を立てて眠っていたオコジョが突然目を開いた。そして、間近に迫ったムジナの顔に驚き、オコジョは顔をヒクヒクと引き攣らせた。


「お前、ひょっとして、俺のことを食べようと考えたんじゃないだろうな。」


 何で、私があんたを食べるのよ。


 オコジョのあまりに酷い言葉に憤慨し、ムジナは怒りで耳まで赤く染め上げて即座にそう言い返した。


「何たって、俺は鼬界一の美人だからな。俺の美貌に幻惑されたお前が俺を独占するために、食べようとしたんだろう。そうだろう、ムジナ。」


 彼の可愛らしい寝顔に強い衝動を覚えたのは事実であったが、ここまで自意識が過剰であると、少々厭味にさえ感じられた。ムジナは、口をあんぐりと開け、驚きを表現した後、呆れた様子で彼にこう切り返した。


 確かにあんたはかわいいけれど、あんたのことを食べたいと思うほど、かわいくはないわよ。どこからそんな発想が出てくるの。あきれて、物が言えないわ。


「じゃあ、俺に何をしようとしたんだ。納得のいくよう、説明してもらおうではないか。」


 ムジナにもプライドがあったし、養父であるホトトギスから教えてもらった女性としての慎みもあった。口が曲がったとしても、「あんたの寝顔があまりに可愛らしくて、思わず舐めたくなってしまったのよ」と素直に告白するわけにはいかなかった。しかし、適当な言いわけも思いつかず、返答に窮してしまった。彼女のその姿を目にし、オコジョは確信を深めた。


「蟷螂や蜘蛛が結婚相手を食べてしまうという話は聞いたことがあるが、まさか、同じ釜の飯を食い、ともに苦労をした俺を食べようとするとは。女という生き物はつくづく恐ろしい生き物だ。」


 オコジョは、そう言いながら、非難の視線を彼女に浴びせ掛けた。


 誤解よ、誤解。


 ムジナは、何度もそう言って、彼の誤解を解こうとしたが、オコジョは「じゃあ、俺に何をしようとしたのだ」と言って、彼女の話に聴き耳を立てようとしなかった。オコジョの愛くるしい寝顔の誘惑に負け、顔を舐めようとしたと告白するのも耐え難がったが、再び巡り会うことのないかもしれないない大の得意のオコジョに自分が彼のことを食べようとしたと一生誤解され続けられのは、もっと耐えられなかった。そこで、彼女は、全てを観念し、大きな溜め息を一つ吐いてから、そのことを素直に告白した。一方、告白を受けたオコジョは、その話を聞いてすぐには、彼女のその告白を信じられない様子であったが、告白後に恥ずかしそうなもじもじしているオコジョの様子を見て、それが真実であることに気付き、ほっと安堵した様子を見せた。


「だったら、最初から素直にそう言えばいいだろう。お前、涎を垂らしながら鼻の穴をヒクヒクさせていただろう。お前のその顔を見て、オレは、こいつ、オレを食べる気だなと勘違いしたじゃないか。」


 「そんなことはしないわよ。私はそんなふしだらな女ではない」と反論したかったが、目を覚ました時のオコジョのこわばった表情を思い出し、信じられないけれど、ムジナは「ひょっとしたら、オコジョの言う通りの顔を自分がしていたのかもしれない」と考え始めた。彼女は、少しばつの悪い、どこかふて腐れた表情をして、「本当に私そんな顔をしていたの」と彼に確認した。


「こんな顔をしていたぞ。」


 オコジョはそう言うと、口元に幾筋も涎を流し、何とも形容しがたい表情を浮かべた。ムジナは、オコジョのその表情を目にし、本当に自分がそのような表情を浮かべたのか怪訝に思った。そして、彼女は、どことなく野卑た笑みを浮かべているオコジョに尋ねた。


 私がそんな変な表情を浮かべるはずはないわ。絶対、あんたの勘違いよ。寝惚けていたんじゃない。


「いや、俺はこの目で確かにお前が涎を幾筋も垂らしているのを見た。俺の顔に垂れたお前の涎で俺は目を覚ましたんだから、間違いはない。」


 オコジョは、即座にそう言って、彼女の疑問に答えた。彼のその返答には、彼がどうして突然目を覚ましたのか、その理由まで含まれていた。そのため、彼女は納得する以外なかった。しかし、彼女は、微かな期待を込め、もう一度、「本当に、私は涎を垂らしていたの」と尋ねてみた。


「本当だ。お前はこんな顔をして、涎を垂らしていた。俺はお前に食べられるのでは、と心配になった位だからな。」


 オコジョは、床に垂れるのではないか、と思われるほど涎を浮かべ、秀麗な顔をそれ以上出来ないほど歪め、野卑た笑顔を浮かべた。


 具体的にどこがどう違うのかは分からない。だが、どこかがいつでもものオコジョとは違うように感じられた。


 母性本能を刺激して止まない、小さくて愛くるしい、整った顔。惚れ惚れとするほど美しい、一角大雪兎に藍染めされた彼の毛並み。ぞんざいな物言い。どれもこれも、眼前の彼がオコジョその本人であることを如実に物語っていた。しかし、彼女には、彼がいつもと違っているように感じられ始めた。そこど、彼女は、オコジョに近付き、その匂いを嗅ぎ始めた。


「変な奴だな。」


 突然の彼女の行動の異変に驚き、オコジョは、そんな言葉を何度も発し、彼女の行動を訝った。しかし、ムジナは、そのことを気にすることなく、本人照合を行うために、クンクンとオコジョの体の匂いを嗅ぎ続けた。


 変ねえ、オコジョの匂いしかしないわ。私の勘違いかしら。


 彼女がそう思った時、オコジョが、突然、物凄い匂いのおならをした。


 おならなんか突然しないでよ、オコジョ。それにしても、臭いわね、あんたのおなら。


「すまん、すまん。」


 オコジョは、悪臭が立ち込める室内の中で、平然とした様子で、照れ笑いをしながらそう言った後、「お前が突然俺の体の匂いをクンクンと嗅ぎ出すだろう。緊張し過ぎて、つい、おならが出てしまった」と、高笑いを始めた。


 毒ガスを彷彿させる悪臭が室内に充満していた。大きな耳だけではなく敏感な嗅覚を有している一角大雪兎は、泡を吹きながら、体を小刻みに震わせていた。しかし、これまでに何度も食べ物を巡る仁義亡き親子の争いで父親であるホトトギスから顔面におならの直撃を受けていたムジナは、何とかその悪臭に耐えることが出来た。おならをした本人とは言え、一角大雪兎を一発で失神させてしまう臭気の中、平然と高笑いを出来る生き物がいるであろうか。彼女は、人間のように二本足で立ち上がり、依然、カンラカンラと高笑いし続けているオコジョを疑わしそうに見上げてから、こう断定した。


 私のオコジョがこんな酷いことをするはずがないわ。あんたは偽物よ。父ちゃんに違いないわ。


 そう確信したムジナは、高笑いに熱中しているオコジョの不意をつき、彼の体に突進した。彼女のその突進を予期していなかったのであろう。オコジョは、彼女の突進を交わすことが出来ず、体を跳ね飛ばされてしまった。そして、跳ね飛ばされた体が空の壁に衝突した時、その衝撃から変装が解け、オコジョからホトトギスの体に戻ってしまった。ムジナは、「やはり」と思いながら、大きく跳ね返ってきたホトトギスの体をジャンプして口で銜えると、悪臭が立ち込めている空を出て外に出た。


 父ちゃん、私のオコジョをどこにやったのよ。


 彼女は、銜えていたホトトギスの体を雪原に押しつけ、鬼気迫る形相で彼にそう詰め寄った。しかし、彼女より数段役者が上のホトトギスは、悪びれる様子を見せることなく、「何のことだ」と白を切り始めた。


 父ちゃんがオコジョをどこかに隠したことは分かっているのよ。だから、早く私にオコジョを返してよ。


 彼女は、彼の体を雪原に押し付けている右足に体重を移動させ、彼にそう詰め寄った。だが、ホトトギスは、口を割ろうとはしなかった。


 このままでは埒があかない。連日のように繰り返されているホトトギスに対するセイラの拷問風景を、これまでに何度も目にしている彼女は、そう判断し、作戦変更をした。彼女は、足の下にしている父親のホトトギスの体を銜え、丁寧に地面の上に降ろすと、小さな子供にしか出来ない愛くるしい表情を浮かべ、彼の顔を正面から正視した。


 ねえ、父ちゃん、オコジョはどこにいるの。


「オコジョとは誰のことだ。そんな奴は、知らないな。」


 ホトトギスは、そう答えると、プイと顔を背けた。そして、夜空に明々と浮かんでいる満月を見上げ、理解困難なことを言い始めた。