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ホトトギス捕物帖 6章の終わり [ホトトギス捕物帖]

「まさか、お茶請けとして一緒にこれを食べようと言うつもりじゃないだろうな。」
 生半なことでは驚かないホトトギスが、赤や黒、白に青と言った色鮮やかな黴に覆われた歯形の痕がしっかりと残っているそのチーズを目にし、一旦少し後退りした後、ぎょっとした表情を浮かべてそう尋ねた。
「冗談じゃない。こんな宝物を食べたりするものか。」
「こんな黴だらけのチーズが宝物だって。どの辺りが宝物なのか、説明してもらえないか。」
「秋の紅葉を彷彿させるようなこの絶妙な黴の配置。自然のみ可能な造型の妙だな。それに加え、この齧った歯形がまたたまらない。黴の錦と、絶妙なハーモニーを醸し出しているではないか。見るところ、これは動物の歯形だな。この犬歯の形から、ムジナの物と考えられる。今日一番の宝物だな、これは。」
 満足そうに、色鮮やかな黴に彩られたチーズについて蘊蓄を傾けられ、そんな物であろうかと、ホトトギスは妙に納得させられた。熱々の渋茶を啜りながら、四咫烏がそのチーズを大切そうに頭陀袋に仕舞い込むのを眺めた。
「この間、お前が身を固めたと言う噂を小耳に挟んだのだけど、これは本当の話なのか。本当ならどんな相手と結婚したんだ。」
「お宝を求め、世界中を旅する俺様が身を固める筈がないだろう。」
 素っ気無い返事が四咫烏から戻ってきた。蜘蛛の巣のように、世界中に張り巡らした自らの情報網に対してそれなりの自信と自負心を有しているホトトギスは、その網にかかった情報と食い違いを見せる四咫烏の返答に納得できなかった。ホトトギスは、「北の森でお前がカケスと密会を重ねているところを見た、と言う確固たる情報を掴んでいるんだ。素直に事実を認めたらどうなんだ。往生際が悪いのも程々にしないと、友達を失うぞ」と迫った。
「あっ、あのカケスか。翼のブルーがとっても印象的で、チャーミングなカケスだったが、とっくの前に別れた。それに、だいぶ大昔の話だぞ。今頃、そんな古い話を掘り返して、どうする心算なんだ。」
 何故そこにあったのか不明であるが、四咫烏は新たに箪笥の裏から嘴で鏡餅を引っ張り出しながら、振り返ることなくそう答えた。鏡餅を何とか箪笥の裏から引っ張り出すと、嘴で何個かに割り、二つを残し、頭陀袋に仕舞い込んだ。そして、残した二つの餅をホトトギスの方に突き出した。
「俺へのプレゼントか。気が利くようになったな」と言って、ホトトギスがそれを受け取ろうと右の翼を伸ばすと、四咫烏は鋭い嘴でそれを激しく突ついた。左の翼で突つかれた場所を押さえながら「何をするんだ」と文句をつけた。
「誰がこの餅をお前にやると言った。自分に都合の良いように考えるのも大概にしろ。俺はただこの餅をお前に焼いて欲しかっただけだ。分かったら、何時ものようの嘴からゴーっと火を吐き、餅を焼きやがれ。」
 四咫烏はそう言った後、最後に「焼き餅は、お前、得意だろう」と一言付け加えた。
 ホトトギスのことを良く知る仲間内では、彼が報われない思いを一方的にセイラに寄せていることと同様、彼が嫉妬深い事実は周知のことであった。それ故に、四咫烏はホトトギスをそう揶揄したのであった。
「二つの内の一つは俺の分なのだろうな。でなければ、断固として断わる。」
 四咫烏が頷き返すのを確認してから、ホトトギスは餅を受け取った。そして、嘴からゴーと言う炎を吐き出し、餅を焼いた。焼き上がった餅にさりげない視線を送り、その大きさを見定めてから、ホトトギスは小さな餅を四咫烏に渡した後、手に残った餅を嘴に含んだ。

ホトトギス捕物帖 6章の続き6 [ホトトギス捕物帖]

 四咫烏(よたからす)であった。熊野神社に奉られている、神武東征の際に天照大神に遣わされたとされる伝説の八咫烏の鳩子で、悪戯好きが災いし天界を追放されたと噂される、あの四咫(与太)烏であった。
 神様としての神格の高い八咫烏の一族でとされている四咫烏が先程の蚊の集団の手引きをしたのならば、全て説明がついた。ホトトギスは、隣りで何食わぬ顔をして毛繕いをしている四咫烏をいまいましげに横睨みした後、どすの聞いた声で「さっきの蚊はお前の仕業か」と尋ねた。
 四咫烏は、悪戯好きで、これまでにとんでもない悪戯を繰り返してきた。己の楽しみのためだけに他人の迷惑など一顧にだにしない人騒がせの四咫烏が、戯をしたとしても、その犯行を素直に認める筈がなかった。案の定、彼の嘴からは「何のことだ」という言葉が帰ってきた。
 これまでに何度も四咫烏の人騒がせな悪戯の餌食になっているホトトギスは、その返答に満足しなかった。蚊に血を吸われた吸い口を指し示し、「惚けるんじゃない。お前以外に、一体、誰が俺様にこんな酷い悪戯できるというのだ」と、語気も荒く迫った。
 地上最強の生物の呼び声の高いドラゴンの骨を嘴の一突きで木っ端微塵にする。ホトトギスはそれほど恐ろしい存在であった。非常識と言って良い、ホトトギスの恐るべき戦闘力を目の当たりにした人間ならば、その圧倒的な迫力に気圧されて、やってもいない罪さえ認めてしまうところであろう。しかし、伝説の八咫烏の末裔と噂される四咫烏は、そんなホトトギスを無視するかのように毛繕いを始めた。そして、それを済ますと、こう言い放った。
「俺を誰だと思っているのだ。そんな姑息な真似をする筈がないだろう。俺を疑う前に例の鶯を疑ったらどうなんだ。」
 四咫烏が「例の鶯」と呼ぶ鶯は、古くからホトトギスと敵対関係にある謎に包まれた鶯である。突然、ホトトギスの前に姿を現しては、後頭部に蹴りを入れたり、空からホトトギスの頭頂部を狙い、鼻が曲がるのではないかと思われるほどの悪臭を放つ糞爆弾を落としたあと、何処かへと姿を隠す、正体不明の鶯であった。
 その指摘を受け、「確かに、あの根性の悪い鶯野郎ならば、やりかねない」と頷いた。お前が悪戯をするのならば、もっと手のこんだ悪戯をするであろうし、こうした地味で陰険な悪戯をするのはあの鶯以外に考えられなかったからであった。
「それはそれとして、お前はここに何をしにやって来たんだ。まさか、俺の顔が見たくなってここにやって来た、なんてふざけた話をするつもりではないだろうな。」
「何しにここに来たかだと。お宝捜しに決まっているじゃないか。」
 四咫烏は、そう言うと、室内の物色を始めた。
 カイの部屋には、値の張りそうな品物が無造作に置かれていた。目利きを自任する守銭奴のホトトギスならば値の張りそうな品物を根刮ぎにするところであるが、四咫烏はそうしたお宝にはまるで興味がなかった。彼にとってのお宝は、大概、彼以外の人間には価値の理解できない物であり、殆どがガラクタ同然の物であった。例を上げるならば、プレミア価値がまったくない少し形が変わった瓶の王冠であったり、お味噌汁の具に使用された蜆(しじみ)の、真珠の出来かけの貝殻などなど、殆どゴミ同然のものばかりであった。
 カイの寝室は掃除が行き届いていた。そのため、お宝を見付けるのは困難なように思われたが、家具と壁の隙間などから様々なゴミを引っ張り出すと、胡座を掻き、埃塗れのゴミにフーと息を吹きかけて埃を吹き飛ばすと、一つ一つ丁寧に調べ始めた。
 蓼食う虫も好き好きではないけれど、人の好みというのは、説明が困難なものである。ある人にとってはゴミ同然の物でも、他の人間にとっては、掛け替えのない宝物ということもある。ホトトギスは、四咫烏の変わった趣味に呆れながらも、その趣味を尊重し、遠巻きにその姿を見守った。そして、気を利かせ、ホトトギスは「精の出ることだ。まあ、熱いお茶でも飲め」と言って、熱い渋茶を差し出した。
「お前に余計な気を遣わせて済まない。」
「それで、何かめぼしい物はあったのか。」
「これを見てみろ。」
 そう言って、四咫烏が黴に塗れた食べかけのチーズの切れ端を差し出した。

ホトトギス捕物帖 6章の続き5 [ホトトギス捕物帖]

 その夜のことである。カイの枕元に休んでいたホトトギスは、何者かの気配を感じて、夜中に目を覚ました。そして、その正体を確かめるために、ホトトギスは部屋の中を見回した。だが、特に怪しい物を発見できなかった。
 気のせいであろうか。むさ苦しい男と同じ蒲団で寝たために、精神に支障をきたしたのかもしれない。
 そのように考えたホトトギスは改めて寝直すことにした。
 そのとき、音量は小さいものの、プーンとか細い耳障りな音が彼の耳に入ってきた。
 蚊か。ならば、狙いは、俺様ではなく、人間のカイだな。無視することにするか。
 食事の際にホトトギスは、当然のように大量のアルコールを摂取していた。新陳代謝が活発な上に、ホトトギスは人間と同じ血液を持っていたので、蚊の格好の標的になってしまった。編隊を組み、次々と薮蚊がホトトギスの体に襲い掛かってきた。
 蚊は吸い口を獲物の柔肌に突き立てた後、血液が凝固しないように、唾液を獲物の体内へと流し込む。しかも、蚊の唾液の成分には、麻酔作用を持つ物質が含まれていて、蚊が血を吸っている相手にそのことを気付かせないという効果を持っている。そのため、大酒を食らった酔いも手伝い、ホトトギスは、黒だかりになり血を吸い続けている蚊の存在になかなか気付かなかった。やがて全身を激しく襲う痒みで目を覚ましたホトトギスは、「俺様の横に如何にも美味しそうな獲物がいるのに、どうして俺だけを狙うんだ。いい加減にしやがれ」と、蚊に文句をつけた。
 しかし、よほどホトトギスの血が気に入ったのであろう。ホトトギスが目を覚ましたことに驚き、一度、彼の体から離れた蚊の群れが、申し合わせたように再び一斉にホトトギスに襲い掛かった。
 最強の生物と呼ばれる竜のゾンビ、骨を退治し、地上最強の金看板を誇るホトトギスにとって、蚊など取るに足らない、文字通り羽虫のような存在であった。しかし、さしものホトトギスをもってしても、小さいな蚊を退治することはなかなかの困難事であった。しかも、統制の取れている蚊の集団は、なおのこと難しい敵であった。
 やれ、やれ、面倒な。
 ホトトギスは、心中でそう呟いて、億劫そうに体を起き上がらせようとした。その時、ホトトギスは激しい眩暈を感じた。二日酔いであろうかと一瞬考えたが、すぐに、蚊に体内の血を大量に吸われたことによる貧血がその原因であることに気付いた。だが、気づいたときには手遅れであった。貧血で身動きのできないホトトギスは、不覚にも、そのまま、その場に倒れ込んだ。そして、ひたすら蚊に全身の血を吸われ続けた。
 全身の血を吸い尽くされたホトトギスは、死んだように暫く眠りに就いた。しかし、死んでもなお死に切れない不死身の、再生能力に富んだホトトギスは、蚊が立ち去ると猛烈な勢いで血を再生した。そして、何事もなかったように起き上がると、蚊が立ち去っていった窓をじっと見詰めた。
「まるで誰かに操られているようであったが、さっきの蚊は何だったのだろう。誰かが差し向けた刺客だったのだろうか。」
 本人の自覚がなくても、人は幾人かの他人の恨みを買っているものである。いざその恨みを返されたとしても、誰の仕業かなかなか分からないものである。まして至る所で恨みを買い続けているホトトギスには、思い当たることがあり過ぎて、誰の仕業か特定することができなかった。
「あのいけ好かない鶯であろうか。それとも、変態銀狐であろうか。」
 ホトトギスは、首を微かに傾け、腕組みをしてそう呟いた。そこに何処からともなく一陣の風が吹き込んだ。そして、その風が止んだ時、彼の横には、一羽の鴉の姿があった。


ホトトギス捕物帖 6章の続き4 [ホトトギス捕物帖]

「父ちゃん、晩ご飯の時間だよ。早くお家に戻ろうよ。」
 テーブルの上に置かれた果物やお菓子を散々食い散らかしたムジナは、テーブルからピョンと床に飛び降りると、父親のホトトギスにそう語りかけた。
「父ちゃんはここに残る。帰りたければ、お前一人でサッサと帰りやがれ。」
 ホトトギスは神殿に帰る素振りを微塵も見せることなく、素っ気無くムジナにそう答えた。
「何で、家に戻らないのよ。さあ、早く帰りましょう。」
 ムジナは更に催促した。しかし、ホトトギスは、彼女に背を向けて、ムジナの矢のような催促を無視し続けた。父親譲りの執念深さと執拗さを有するムジナも負けじと飽きることなく促がしたが、「このままでは埒が明かない。下手をすれば自分まで晩ご飯抜きになってしまう」と考えたらしく、「勝手にしなさい」と捨て台詞を残し、ひとり神殿へと戻っていった。
 娘のその後ろ姿を見送ってから、ホトトギスは、一向に帰る素振りを見せない雀に視線の先を向けた。そして、「奥さんと子供が首を長くしてお前の帰りを待っているんじゃないか。こんな所でグズグズしていて構わないのか」と、雀に問いかけた。
「妻は、現在、温泉旅行中だ。誰が家に待っている訳でもなし、それに、ここにいれば白いお飯を食べられそうだし、家に帰るって法はないだろう。俺もお前と一緒にここに残るぜ。」
 そう答えると、雀は豪快な笑い声を上げ始めた。
 雀のその馬鹿笑いにヤレヤレという表情を浮かべ、ホトトギスは両方の翼を持ち上げるような仕種をした。それから、何を考えたのか、雀に負けじと馬鹿笑いを始めた。そうこうしている内に、部屋の主であるカイが戻ってきた。その姿を見付けると、ホトトギスは、高笑いをすぐに止め、「日暮れも近付き、夕ご飯の時間だと言うのに、お前はお客様に晩ご飯を出さない心算なのか。お前がまだ乳離れのできない小さなお子様だとしても、この様な仕打ちは、お客様に対して非礼極まりないだろう。分かったら、サッサと晩ご飯の支度をしやがれ」と、大声を上げた。
「そうだね、雀君に何か上げないとね。何が食べたい、雀君。」
 カイが、猫撫で声で、雀にそう尋ねた。
 昨日今日人間と生活するようになったばかりであり、雀は、全くと言って良いほど、人間の言葉が理解できなかった。だが、種が異なっていても、言葉が通じなくても、真心は通じ合うものである。雀は、瞬きをすることなく、カイの目をじっと見詰めた。
「雀の好物と言えば、お米だよね。お米が良いのかい。それとも、ご飯の方が良いのかな。」
 お米は、穀物の中の穀物と言っても過言ではないほどでの食材である。食味に優れているでけではなく、同じく穀物である小麦やトウモロコシとは違い、必須アミノ酸などのタンパク質も多く含んでいる。そして、お米は雀の大好物である。カイの「お米」という言葉に、雀はとりわけ強い反応を示した。
 その雀の反応を質問の返答と心得たカイは、お米を取りに台所に向かおうとした。
「ちょっと待った。何で昨日今日仲間になったばかりの新参者の雀にご飯があるのに、古くからの仲間である俺様には何もないのだ。理不尽極まりない。分かったら、ご馳走をたらふく持ってくるのだ。」
「お前は、神殿に戻れば、晩ご飯が用意されているだろう。それなのに、何で、僕がお前の夕食の心配をしなければならないんだ。」
 ククロビン殺害の嫌疑をかけられて以来、神殿から正式に彼に支給される朝昼晩の三度の食事を抜きにされていることを、カイは知らなかった。それ故に、彼にこう尋ねたのであった。
 質問者が、彼の永遠のライバルであり、同時に不倶戴天の仇であるカイでなかったら、その嫌疑が晴れてもなお未だご飯抜きの目にあっている自分の境遇を涙交じりに語り、同情を引こうとしたかもしれない。しかし、カイに自分の恥を曝すような真似をできる訳がなかった。
「信義に厚い俺様が、心の友と言える雀をここに一人残し、神殿に戻るような真似をできるはずがないだろう。信義と礼儀に悖る、そんな行為をしたら、お天道様の下を恥ずかしくて歩けなくなってしまうだろうが。分かったら、サッサと俺様の晩ご飯の支度をするんだ。出ないとどうなるか分かっているだろうな。」
 ホトトギスは、嘴の先を不気味にきらりと光らせながら、カイを恫喝した。そのようなホトトギスの恫喝に屈するカイではなかったが、要らぬ騒動を招くのを避けるため、ホトトギスの要求を受け入れた。そして、二人の鳥の夕食の支度をするために、部屋を後にした。


5カ月の娘を殺害容疑、母親逮捕 「顔を水につけ窒息」 朝日 [ホトトギス捕物帖]





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ホトトギス捕物帖 6章の続き3 [ホトトギス捕物帖]

 まんまと大玉の甘い西瓜をせしめることに成功したホトトギスは、ムジナの背の上で歓びの舞を踊り、その喜びを率直に表現していた。それも束の間、新たなご馳走がホトトギスの目に飛び込んだ。踊りを即座に中断すると、ホトトギスは、香ばしい香とジュージューと良い音を放っている焼きソーセージを、口元から涎をだらだらと流し、瞬きすることなくじっと見詰めた。
「父ちゃん、あれ、とっても美味しそうだね。」
 頭の上に次々と落ちてくるホトトギスの涎から父親の異常に気付いたムジナが足を止め、そう声をかけてきた。
「父ちゃんもお前も、ここのところ、碌な物を食べていないものな。是非とも、あの焼きソーセージを食べたいものだ。」
 父親のその提案にムジナは大きく頷いた。その姿を確認したホトトギスは、ポシェットの中から財布を取り出し、中を覗き込んだ。
 ククロビン殺害の嫌疑をかけられて以来、セイラからホトトギスへの毎月のお小遣の支給が停止していた。そのため、ホトトギスの財布には、銅貨が僅かに二枚あるだけであった。
 これだけあれば、焼きソーセージを二本買うことはできる。しかし、虎の子と言えるこの銅貨を焼きソーセージに使っていいものであろうか。
 ホトトギスは、腕組みをして、そのことについて考え始めた。
 人生、一寸先にどのような災いが待ち受けているのか分からない。僅か二枚の銅貨であるが、不確定な将来のために、これを貯えておく必要があるのではないか。だとすれば、頼れるのはカイの財布のみである。
 その結論に到達したホトトギスは、カイの懐の中に飛び込み、カイの財布を嘴でしっかりと銜え飛び出した。「待て、泥棒」とカイが大声を上げるのを無視し、ソーセージを炭火で焼いている出店に舞い降りる、カイの財布の中から銀貨を一枚取り出して「焼きソーセージを三本貰おうか」と店の主に注文した。
 雀はお米などの穀物を餌にするイメージが強いけれど、雑食性で、稲などに集る小さな昆虫などもよく食べる。当然、与えれば、雀だってソーセージを食べる。とは言え、小さな雀が食べる量など知れている。雀が焼きソーセージを一本丸噛りにすることなどありえない話である。だとすれば、ホトトギス、ムナ、さらに出資者であるカイが一本ずつ食べると考えるのが自然であろう。しかし、ホトトギスの計算の中ににカイは入っていなかった。ホトトギスが二本、残りの一本が一人娘のムジナと言うのが、彼の計算であった。また、お釣も当然のこと彼の物であった。ホトトギスは、本来カイの財布に戻されるべきお釣を受け取ると、悪びれる気配を見せることなく、そのお釣を自分の財布の中に仕舞い込んだ。それから、ホトトギスは、遅れてやってきたカイに財布をぽんと放り投げた。
「人の財布を盗んで、そのお金で物を買うなど、信じられん奴だ。」
 不遜とも取れるカイのこの発言に対し、いつもならば、「二度とそんな口が利けないように、こうしてやる」と言った後、「死ね、この野郎」と、カイの額を目掛け嘴から突っ込んで行くところであったが、「アチアチ」と言って、焼きソーセージを頬張っているホトトギスにその暇はなかった。ホトトギスは、依然文句を吐け続けるカイを敢然と無視し、そのカイの横で行儀良く腰を下ろしているムジナに焼きソーセージを一本投げ渡した。
「父ちゃんのおごりだ。遠慮しないで食べろ。」
 足元のムジナにそう声をかけると、ホトトギスはホクホクと焼きソーセージを食べ始めた。


ホトトギス捕物帖 6章の続き2 [ホトトギス捕物帖]

 ウィノナの祖母の家は、片道の距離が徒歩で十日ほどの所にある。その間に宿場町が幾つも点在し、特に旅支度は必要がなかった。にもかかわらず、一行が市場に買い出しに出かけたのは、ホトトギスが旅のメンバーに加わっているためであった。
 ホトトギスがメンバーに加わると、どうして買い出しが必要になるのか。それはホトトギスの食欲が並外れているためであった。神殿への貢献は神殿に寄宿する者の中で一番でありながら、ホトトギスに神殿から支給される食糧は極僅かであり、ホトトギスは慢性的に空腹に悩まされていた。そして、旅に出ると、その遅れを取り戻すかのように、ひたすら食べ物を食べ続けるのであった。
 それも三度の食事だけに限ったものではない。十時と三時のお八つが必要であり、さらに何か重労働を行った時などは、非時の食事が追加されるのが常である。
 セイラがいれば、ホトトギスの厚かましい要求を撥ね付けることもできるあろう。しかし、ホトトギスの食事の要求を無下に拒絶すると、機嫌を損ねたホトトギスがどのようなことを仕出かすか、予測ができなかった。歩きながらいつまでもブツクサと文句を言ったり、カイやムジナに嫌がらせをするくらいならまだしも、意味もなく天から巨大な氷塊を降らしたり、天に向けて口から巨大な炎を吐いたりするのである。後が面倒なので一行に実害を与えるような仕返しはしないもののの、人騒がせなことを次から次とするのである。それ故、旅に出る前には、大量の食糧を購入しなければならなかったのである。
 とは言え、右の翼で次々と西瓜を叩き、西瓜の品定めを長々とされていたなら、いつまで経っても旅の支度が終わらない。ホトトギスのその姿を呆れたように見詰めていたカイが口を開いた。
「いい加減にしろよ。それじゃあ、いつまで経っても終わらないじゃないか。」
「それが嫌なら、ここに置いてある西瓜を全て買うことだ。」
 特大の西瓜に抱き付き、その表面をペロペロと舐めながら、ホトトギスはそう怒鳴り返した。
 西瓜を叩き、品質の調査をするくらいなら、多くの人がすることであり、そのことに目を瞑ることもできる。しかし、店の主人が幾ら底抜けのお人好しであったとしても、売り物の西瓜の表面をペロペロと舐められては黙っている訳にはいかなかった。
「お客さん。困りますよ。」
 ホトトギスにそうクレームをつけた後、店の主は、カイに視線の先を向け、「当然、お買い上げ願えるのですよね」と詰問口調で尋ねた。
 この様な状況になった以上、西瓜の代金を払う以外の選択肢はなかった。カイは店の主人に言われるままに西瓜の代金を支払い、ようやく、ホトトギス一行はその店を後にした。


ホトトギス捕物帖 6章の続き1 [ホトトギス捕物帖]

 古歌を引き合いに出したりと、ホトトギスの行動は明らかに普段と異なっていた。何か悪い物でも食べたのではと心配になって足を止めると、ムジナは、自分の背に止まっているホトトギスを顧みた。
 そんな彼の気遣いは全く無用であった。と言うのは、露店の店先に並べられている西瓜にホトトギスの目が釘付けになっているだけでからだ。ホトトギスがカイの財布の中身を当てにし西瓜を見定めていることに気付いたムジナは、心配して損をしたわと大きく溜め息を吐いてから、ミルク飴を受け取り、それを舐め始めた。
「オヤジ、この西瓜は幾らだ。」
 案の定、それから幾らも時間が経たない内に、ホトトギスの値切る声が聞こえてきた。どうせセイラお姉ちゃんのお土産にする心算なのだろうと呆れながら、ムジナは視線の先を値段の交渉に血眼を上げているホトトギスに向けた。
 これが自分の父親かと思うと、少し悲しい気分になった。ムジナは大きな溜め息を一つ吐いた後、顳の辺りに幾つも青筋を浮かべながら価格交渉をしているホトトギスに歩み寄った。
「どの西瓜も美味しそうじゃない。どれでも一緒でしょう。どれでも良いから早く決めてよ、父ちゃん。」
「これだから素人は困るの。」
 首だけを百八十度回転させ、物凄い形相をしてムジナを睨み付けた。
「素人目にはどれも一緒に見えるだろうが、一つ一つ味が違うのだ。見てみろ。」
 そう言うと、ホトトギスは西瓜の上に飛び乗り、右の翼でポンポンと叩きその音を確かめては、次の西瓜へと飛び移り、同じことを繰り返した。
「お馬鹿なお前でもこの音の違いが分かるだろう。これと同じように、西瓜の味も一つ一つ違うのだ。分かったら、大人しくしていろ。」
 あれこれと蘊蓄を傾けるホトトギスに辟易とし、ムジナはそっぽを向き、市場に向かい歩き始めた。

ホトトギス捕物帖 6章のはじまり [ホトトギス捕物帖]

六章
 
 ホトトギスがセイラから命じられた仕事というのは、クロウリーの一人娘であるウィノナを祖母の家に送り届けることであった。両親がいるのだから、ホトトギスが送り届けなくても良いようなものであるが、父親のクロウリーが突然の仕事の依頼で暫く家を空けざるを得なくなり、ホトトギスがその役目を受けざるを得なくなったのであった。
 祖母の家が王都にあるのならば、朝飯前の仕事であったろう。だが、祖母の自宅は王都から遠く離れた国境近くにあり、送り届けるだけでも大仕事であった。
 翌朝目を覚ますと、ホトトギスは、ムジナと雀、さらにカイを引き連れ、旅支度のために市場に向かった。
 ホトトギスは、ムジナの背に颯爽と跨り、一同を引き連れぞろぞろと街中を闊歩していた。ムジナの背に跨るホトトギスの姿をすっかり見慣れた王都の住民は、さしてそのことを気にする様子はなかった。王都の住人との面倒な応対から解放され、街の風景に溶け込むことはそれはそれで気楽であり結構なことであるに違いないのだが、喝采願望と自己顕示欲の塊であるホトトギスは絶えず衆目を集めないと気が済まなかった。通行人の関心を惹くためにムジナの頭で舞を披露しようと、ホトトギスが立ち上がろうとした時のことであった。ホトトギスのその気配を察したカイがポケットから飴玉を一つ取り出し、ポーンとそれを放り投げた。
 カイの投げ上げた飴玉はミルク飴であった。それの放つ濃厚な香に素早く反応し、ホトトギスは、それを目掛けて飛び上がると、嘴を大きく開き一飲みにした。
 反芻を行える一部の哺乳動物を除き、多くの哺乳動物は、一度胃の中に入れた食べ物を自らの意志で口に戻すことはできない。しかし、鳥はそれを簡単に行うことができる。当然、ホトトギスにもそれができた。ホトトギスは、胃に一度収めたミルク飴を当り前のように戻すと、胃液に塗れたそれを舐め始めた。
「父ちゃんだけずるいわ。私にも飴玉を頂戴よ。」
 反応が遅れ、飴玉を貰えなかったムジナが足を止め振り返ると、行儀良く腰を下ろし、愛敬のある表情をしてカイに控え目なおねだりをした。
「分かっているよ。」
 ムジナにそう笑い返した後、カイは「後が良い。それとも今が良いの」と問い掛けた。
 まだまだ子供であったけれど、ムジナは自分はもう一人前の女性であると信じて疑わなかった。淑女は人通りの多い所で物を食べたりしない。麗しの猫からそう教えてもらったムジナは「後で頂くわ」と腰を上げ、前を向き歩き始めた。
 カイとムジナの遣り取りの一部始終を目にしたホトトギスは、何を思ったのか、それまで舐めていた飴玉を右の翼に吐き出した。そして、それを彼女の眼前に近付け、「父ちゃんの飴玉を食べるか」と尋ねた。
 ホトトギスとムジナがごく普通の親子であったならば、その心温まる光景に誰しも目を細めたであろう。しかし、ホトトギス親子は普通の親子ではなかった。これまでに二人は血で血を洗うような食べ物を巡る熾烈な争奪戦を何度も繰り広げていたからである。何か魂胆があるに違いないと考えたムジナは胡散臭そうにホトトギスの顔を覗き込んだ。
「父ちゃんの涎が一杯付いた飴玉なんか要らないわ。」
「まあ、そう言うな。このミルク飴、美味しいぞ。さあ、遠慮しないで、受け取れ。」
 美味しいと思ったら、一人娘である彼女がそれを美味しそうに食べていようが、平気で奪い取る。それがホトトギスである。そんなホトトギスが何時になく優しい言葉を自分にかけるのである。ムジナのホトトギスに対する不信感と警戒感はさらに高まった。
「何か企んでいるんでしょう、父ちゃん。」
「『瓜食めば こども思ほゆ 栗食めば ましてしのばゆ いづくより 来たりしものを 眼交に もとな懸りて 安寝しなさぬ』と、古歌にあるように、親と言う生き物は馬鹿な生き物で、何か美味しい物を食べた時など、子供に食べさして上げたいと自然考えてしまう愚かな生き物なのだ。つべこべ言わずこれを受け取り、サッサと食べろ。」


ホトトギス捕物帖 5章の終わり [ホトトギス捕物帖]

 「舌切り雀」の話から容易に推測できるように、雀はお米が大好きである。そのため、草食のイメージが強い雀であるけれど、実はムジナと同じく雑食性で、虫も好んで食す。虫の美味しさを知る雀は、ムジナに頭の上にピョンと飛び移ると、同情した様子で何度も彼女の頭を優しく翼で撫でた。そして、ホトトギスに強い非難の眼差しを向けた。
 刺すような雀の視線にも、ホトトギスは動じることはなかった。何のことだ。俺は知らない、と言いたそうな顔をして、ホトトギスはプイと横を向いた。
「それで、セイラとか言う人間にホトトギスは許してもらえたのか。」
 セイラに一途な思いを寄せるホトトギスは、雀の「セイラとか言う人間」という言葉に強い反応を見せた。それまでの惚けた表情を強張らせ、鋭い眼光で雀を睨み付けた。
「セイラは俺様の婚約者兼恋人だ。そのセイラを捕まえて、セイラとか言う人間とは、どういう料簡だ。返答次第によっては、命がないものと思え。」
「済まない。済まない。」
 雀は、右の翼で頭をポリポリと掻きながら、そう答えた。その返答を聞き、ホトトギスの機嫌は即座に直った。
「ククロビン殺害の嫌疑が晴れたのだから、無罪放免されて然るべきであろう。しかし、冤罪であったのだから、『ホトトギスのことを疑ってごめんなさい』と謝罪の言葉とともに、頭を優しく撫でてくれたり、キスをして僕の蒙った精神的な苦痛を慰撫されて当然なのに、お詫びの言葉一つない。まあ、僕とセイラの仲だから、このことは大目に見て遣れないこともないけれど、こともあろうに、何も悪いことをしていない僕に『ホトトギス、あんたの出番よ』と、僕を遠ざけるように仕事を押し付けたんだ。こんな理不尽なことがあっていいのだろうか。」
 ホトトギスは、そう嘆くと、手にしていた杯を一気に飲み干した。
「それで、どんな仕事なんだ。差し支えがないのなら、話してくれないか。」
 雀のその言葉を受け、ホトトギスは命じられた仕事の内容を打ち明け始めた。


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