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ユネスコの新事務局長 仏の前文化相を選出 NHK [セイラ4]


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中国 党大会前に「烈士記念日」で盛大な式典 NHK [セイラ4]


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セイラ4 3章の続き8 [セイラ4]

 その後、一行は、昼食を取りながら、今後の行動の予定について話し合った。

 ホトトギスは、大人しく昼食を取り、先ほど仲睦まじいところをまざまざと見せ付けられたカイとセイラの様子を暫く窺っていたが、二人の様子がいつもと変わりないことを知ると、安心した様子で料理を食べ始めた。

「やい、カイ。俺様を出し抜いて、お宝を一人占めしようなんざあ、百万年早いんだよ。正直に宝の在処を話しやがれ。じゃないと、お宝を俺様が独り占めできないだろうが。」

 真剣に今後の打ち合わせをしている三人を余所に、早速ホトトギスがカイに絡み始めた。セイラは、忙しく動かしていた手を休めると、呆れた様子でホトトギスをちらりと一瞥した。それから、彼女は、ホトトギスの頭を叩いてから、彼を怒鳴り付けた。

「お宝捜しに行くんじゃないのよ。あんたその事を知っている?」

 ホトトギスは、両方の翼で頭を抑え、涙を薄っすらと目に浮かべて、恨みがましくセイラの顔を見上げた。

「軽い冗談じゃない。そんなに怒らないでもいいじゃないのよ。セイラの怒った顔もなかなか素敵だけど、僕としたら、笑いかけられた方が嬉しいな。」

 セイラは、ホトトギスをうち捨て、会話を元に戻した。

「明日、出港と言うのは分かったんだけど、ここからどれくらいの旅になるの。そして、目的地に寝泊まりするような施設はあるの。」

 あたかも物見遊山にでも行くようなセイラの質問であったが、年頃の女性として入浴が出来るかどうかと言うことは重大なことであり、是非とも確かめて置かなければならないじこうえあった。前回の船旅では、嵐に遭って船の修理のために最も近い港に寄り、その際に、セイラ達は船の修理の間を港の宿屋で過ごし久方ぶりの入浴を楽しんだが、それ以外は、後に体に不快感を憶えることになる海水の行水をするだけであった。セイラにとって、今回の旅で入浴を出来るかどうかは、極めて重要な問題であった。

「船で一週間くらいの距離だけど、生憎、無人島。お風呂はもちろん、宿泊施設もないよ。池とか川くらいはあるだろうけど。」

 カイのつれない返事を耳にして、セイラは、顔を微かに引き攣らせた。そして、「カイ君、冗談よね」と呟くように尋ねた。カイが何度も小さく首を横に振るのを見てから、彼女は、大きな溜め息を吐いた。川はあるそうだから、水浴びをすればいいか。そう思うと、少しだけ元気が出てきた。

 その晩、翌日の出港を祝った、賑やかな宴会が始まった。カイと騒動ばかり起こしているホトトギスは、セイラの隣に座り、早速、セイラのグラスに酒を注ぎ込んだ。

「セイラ、飲んで、飲んで。」

「私より、あんたが飲んだらいいでしょう。」

 惚れた女自らの酌である。これを飲まずに男と言えるであろうか。ホトトギスは、ぴょんと彼専用のグラスの縁に飛び乗り、並々と注がれた酒に嘴を立てると、嘴をストローのように使い、酒を勢い良く吸い上げ、それを瞬く間に飲み干した。

「いい飲みっぷりじゃない。もっと飲んでみせてよ。」

 セイラが再び勢い良く彼のカップに酒を注ぎ込んできた。

「鶯飲みだね。」

 ホトトギスは、そう洒落込んだ後、瞬く間にそれを飲み干した。酩酊し、いい気分になってきたホトトギスは、頬の辺りを仄かに赤らめ、セイラの顔をゆっくりと見上げた。そして、「セイラこそ全然飲んでいないじゃない。さあさ、一献」と言って、セイラに返杯した。セイラとホトトギスは、差しつ差されつし、夜の時間を楽しんでいた。

 ばたん。セイラが酔い潰れ、テーブルの上に倒れ込んだ。ホトトギスは、酔いつぶれ静かな寝息を立てているセイラの横顔を暫く幸福そうに見詰めてから、寝台に行き、毛布を嘴で銜えて戻ってきた。セイラの体にそれを優しくかけ、「セイラ、お休み」と言った後、ボトルを両方の翼で抱え、よちよちとよろめきながら歩き、ホットミルクをちびちびと飲んでいるカイの前にどんと置いた。

「乳臭えんだよ、お前は。男なら、これを一気に飲んでみろ。」

「酒癖が悪い奴だな。」

 カイは、酒を飲み、ますます柄の悪くなっていたホトトギスを睨み付けた。これまで、ホトトギスに酒を勧められ、その後に随分酷い目に遭わされていたのだから当然の反応である。今回も何か企んでいるに違いない。カイは警戒の色を露にした。

「何も企んでいない。久しぶりに男三人で酒を飲みたいと思っただけだ。何か他意があって、酒を飲もうと言っているわけじゃない。」

 ホトトギスは、どんと胡座を掻き、カイの顔を真正面から正視してきた。相手が人間であったなら、カイも信用したかもしれない。しかし、カイの目の前にいるのは、悪辣非道の、権謀術数家のホトトギスであった。幾ら警戒しても、し過ぎると言うことはなかった。カイは、ますます彼への不信を露にして、「本当だろうな。お前の名誉にかけて、誓うんだろうな」と尋ねた。

「ああ、俺の名誉でも、俺の命でもかけてやる。何なら、セイラの名にかけてもいいぞ。」

 ホトトギスの名誉や命など、いかばかりの重みも価値もないが、ホトトギスにとりセイラは特別な存在で、セイラの名をかけるのなら、まず嘘を吐くこともないだろう。カイは、そう思い、ホトトギスの酒を受けた。

「ところで、」

 カイに何倍も酒杯を勧めてから、少しでも嘘を見逃すまいという顔をして、ホトトギスがカイの顔を正視した。

「お前、俺に何か隠しているだろう。クロウリーを煮て食べようが、焼いて食べようが、俺には何の関わり合いもないが、セイラの身に何かあったら、お前の命はない物と思え。」

 半ば予想していた質問であった。カイは、狼狽する気色を見せず、ホトトギスの注いでくれた酒を舐めるようにして一口、二口飲んでから、「何も隠していないよ」と答えた。そして、二人の視線が空中で熱く交錯し、火花を飛ばし始めた。何かと因縁がある二人のことである。そして、本当に互いを殺し合おうとした仲であった。酒を口にして、どのような事態を迎えるか予想が困難である。二人がカタストロフィーを迎える前に、クロウリーは二人の気を互いから逸らす必要があった。

「私を魚か肉のように言っていますが、私はこれでも人間なのですよ。少し酷いんじゃありませんか。」

 いつもならばクロウリーのおどけた言葉に即座に反応するホトトギスであったが、セイラの命に関わることであり、ホトトギスは、全く反応を示さなかった。ホトトギスはさらに目付きを鋭くして、カイを睨みつけた。一方、カイは、彼から目を逸らし、ちびちびと舐めるようにして、再び酒を飲み始めたていた。そして、カイが酒杯を置いた瞬間、ホトトギスが素早く反応した。ボトルを両方の翼で抱え、カイの背後から迫ると、「油断したな、カイ」と怒鳴りつけ、彼の杯にどくどくとお酒を注ぎ始めた。そして、「勝負だ、カイ。鶯飲みで俺が勝ったなら、正直に答えろ」と迫った。


セイラ4 3章の続き7 [セイラ4]

 作戦会議

 

 カイに置いてゆかれたセイラは、ホトトギスとともに不貞寝をしていたが、カイがなかなか戻って来ないので、俄かにカイのことが心配になった。それと同時に、今朝のカイの様子がいつもと少し異なることに気付き、体をゆっくり起こすと、ホトトギスに相談を持ち掛けた。

「あんた、今日のカイ君、少し変だと思わなかった。」

「カイはいつも変だよ。今日に限ったことじゃないでしょう。変と言えば、クロウリーはもっと変だよね。何たって、あいつ、男が好きだから。」

「あんたに真面目に相談した、私が馬鹿だったわ。」

「馬鹿なのは、カイ。セイラはお利口だよ。そのことは、僕が一番良く知っているんだから。」

 ホトトギスと一緒にいると退屈することはまずない。しかし、それ以上に苛立ちが募る。セイラは、こめかみの辺りをひくひくさせながら、何とか怒りをこらえると、ホトトギスを恐い目で睨み、「少しは真面目になりなさい。じゃないと、もう一緒に寝て上げないわよ」と叱りつけた。

「セイラは変だと思わなかったの。どうして、カイが僕達の船に同乗できたのか、全然不思議に思わなかったの。これは僕の推測だけれど、あいつは僕とセイラが一緒にハネムーンに出掛けることに気付き、それを邪魔しようとして船に乗ったんじゃないかな。」

 ホトトギスの穿った意見を聞き、セイラは、その時のことを思い返してみた。確かに、その可能性も否定できなかった。カイは船室が取れなかったから、特別室を予約したと言っていたが、確かにホトトギスの言うことに一理あるように感じられた。セイラは、「続けて」と彼に話を更に続けるように促した。

 ホトトギスは、セイラに話を邪魔されることはあっても、話をするように促されることは殆どなかった。そのため、ますます嘴を滑らかにし、その穿った意見を拡大させていった。

「僕達が乗ってきた船の横に造りかけの、漁船を二周りくらい大きくした船があったじゃない。思うに、あれは海賊船だね。あれは海賊船だから、きっとお宝捜しに出掛けるに違いない。そうだ、そうだ。何で、僕はそのことに気付かなかったんだろう。ああ、自分が情けない。カイとクロウリーは、実は海賊だったんだ。そして、純情無垢でいたいけない少年達をたらしこみ、海賊に仕立て上げるか、密偵として各地に派遣するつもりなんじゃないかな。セイラは知らないだろうけど、カイは、クロウリー以上の変態で、あっちの方が強いんだよ。だから、カイにかかったら、その少年達は、性の奴隷になることは間違いね。そうか、分かった。僕は今回の事件の黒幕はてっきりクロウリーだと思っていたけれど、実はカイだったに違いない。ああ、何でこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。カイのあのかわいらしい姿に騙されていたんだ。今になって気付いたけど、カイのあの剣は、正当な剣法でなく、海賊の名門マクナマラ家に伝わる幻の邪法剣。敵に剣の軌跡を読ませない、何処からでも斬り付けられる、伝説の邪法剣じゃないか。セイラも見たでしょう。僕がカイの剣を交わし上空に舞い上がった時、カイが繰り出したホトトギス返しを。あれは、支離滅裂流の秘奥義なんだ。」

 聞き出したいことは聞き出した。しかし、よくこれほど次から次へと荒唐無稽な作り話を出来る物だ、とセイラはほとほと感心し、同時に呆れ果てた。一体、この想像力の源は何なのだろう、と思いながら、さらに嘴を開こうとするホトトギスの姿を眺めていた。

「そうと分かれば、海賊船に乗って、宝捜しに出掛けよう。そのお金を元に、ホトトギスマークを更に拡大させるんだ。そして、ホトトギス財団を作り、世界にホトトギスマークの干物を普及させよう、セイラ。」

 ホトトギスがそう言い終わるのと同時に、カイとクロウリーが戻ってきた。そこで、セイラは、なおも喋り続けようとするホトトギスを床に投げ捨てると、「カイに駆け寄り、その不実を詰った。

「カイ君、話はすべてホトトギスから聞いたわ。どうして、そんな水臭い真似をするのよ。いくら危険だとしても、私に内緒で、クロウリーさんと一緒に敵地に乗り込むことはないでしょう。これでも、私はカイ君のことを弟のように思っているのよ。カイ君のためなら、例え死んでも後悔したりしないわよ。それなのに、どうして、私を置いて行こうとするのよ。水臭いのにも、程度と言う物があるんじゃないの。カイ君がなんと言ったって、私は行くからね。止めても無駄だからね。」

 ある意味において、セイラもホトトギスに同様に空想の翼を際限なく広げていたと言えるかもしれない。カイは、驚いたような様子で、暫く真っ赤なセイラの顔を見詰めていた。そして、かわいらしい声で大きな笑い声を上げた後、「姉ちゃん、勘違いだよ。ホトトギスに担がれているんだよ。僕とクロウリーさんは、市場に荷物の買い出しに、それから、港に船の予約に出掛けただけだよ。だいたい、姉ちゃんのことを実の姉のように思っている僕が姉ちゃんを置いて行くわけないでしょうが。それとも、ホトトギスの言葉は信じられるけど、僕の言葉は信じられないと言うわけ。それこそ酷いんじゃない、姉ちゃん」と語りかけた。

「それもそうね、あいつのことを信じた私が馬鹿だったのよね。カイ君が私に嘘をつくわけないものね。」

 セイラは、安心したようにそう言うと、カイの体を思いっきり抱きしめた。

 カイは、少し照れ笑いを浮かべながら、セイラの女性として些か慎みのない行動に苦笑し、やはり姉ちゃんを巻き込むことになったか、と後悔し、その思いを吹き飛ばすように「姉ちゃん駄目だよ、もう少し女性の慎みを持たないと。それに、ホトトギスが凄い形相をして僕を睨み付けているよ。姉ちゃんは別に痛い思いをしないからいいけれど、僕は毎日ホトトギスと喧嘩しなくちゃならないんだよ。少しは喧嘩する僕の身にもなってよ」と言った。


セイラ4 3章の続き6 [セイラ4]

 市場

 

 クロウリーは、あまり世間の注目を自分達に引き寄せないため、また、自分達がこの島の人間であるかのように思わせるため、セイラとカイの衣装も用意していた。カイは、その衣装を着ると、クロウリーと馬と言う名の牛とともに、市場へと買い出しに出掛けた。

「それで、クロウリーさんは、どう思っているの。やはり、あれが関係しているの。」

 カイがこともなげに発した「あれ」という言葉を耳にして、クロウリーは、一瞬、驚いた表情を浮かべた。この島に来て一月ほど調べてようやく事件の手掛かりらしい物を発見したというのに、なぜ、そのことを知っているのだろう、と訝った。

「カイ君、あれって何ですか。」

 カイが、ますます柔和な笑みを浮かべて、眉を動かすことなく、何事でもないかのように「嫌だなあ、そんなに僕を警戒しないでもいいでしょう。目的は一緒なんですから、情報交換をした方が得ではありませんか。それに、僕は、姉ちゃんとクロウリーさんを自分の手を殺したくありませんから」と、物騒なことまでを口にしだした。

 どうやら、カイがセイラと関係なくこの島に来たことは間違いなかった。

「参考までに聞きたいのですが、もしこの事件の真相を知ったら、私達はどうなるのでしょう。」

「ひょっとしたら、戦争になるかもしれませんね。これは僕の予想ですが、クロウリーさんの国はなくなり、この小さな島国も不毛の焦土と化すのではないでしょうか。それでも、知りたいですか、クロウリーさん。」

 カイは僅か十四才の少年である。その少年が眉一つ動かすこのなく、数千、数万、いやもっと多くの人間が戦場の露になるといっているのである。クロウリーはカイの言葉に、そして、そのことを平気な顔で口にするカイという少年に戦慄した。

「そうですか、だとしたら、知りたくないですね。それにしても、カイ君は、一体、何者なんですか。前々からこのことを聞いてみたいと思っていたのですが、それも知ってはいけないことなんでしょうか。」

「多分。それは、僕がこのの国に来た本当の理由に関わりますから。そして、このことは永久に封印しておかないといけないことですから。」

 永久に封印して置かなければならない事とは何であろうか。それが元で戦争にさえなり兼ねない事とは何だろう。そして、カイ君の果たすべき本当の使命とはなんなのだろうか。

 これらの疑問がクロウリーの頭に浮かんだ瞬間、「駄目ですよ、クロウリーさん。詮索しないって、約束したばかりじゃないですか。それに、僕みたいないたいけな子供の手を赤く染めさせてはいけないと思うのですが、クロウリーさんは、どう思いますか」と、クロウリーの心を見透かしたように、カイが微笑みながらこう語りかけてきた。クロウリーは、「それもそうですね」と言うと、それ以上そのことについて考えないようにした。そして、自分が手に入れた情報をカイに全て伝えた。

 クロウリーの話を聞き終えた時、カイの表情には微かに安堵の色が浮かんでいた。それは、同時にクロウリーが重要な事実を何にひとつ掴んでいないことの証拠であった。「カイ君から何も聞き出せないだろう」と思いながらも、クロウリーは「今度はカイ君の番ですよ」と尋ねるだけ尋ねてみた。

「古代文明と神話が関わるとだけ言っておきます。神話と言っても、姉ちゃんの本に記されているような代物ではなくて、もっと古い時代の神話です。もちろん、この国の宰相さんもも知らない。宰相さんは何かに気付いたようですが、でも、全くの的外れですね。もっと忌まわしいものです。それに、目指すのは、この島ではなく、ここから南にある小さな無人島ですよ。ホトトギスは、このことに薄々気付いているようですが。」

 そう話し終えた時には、いつもののカイに戻っていた。

「そんなに話してもいいのですか。」

 クロウリーは、出来るだけ明るくそう尋ねた。

「大切なことは何も話してないですよ。それでこらからどうしますか。姉ちゃんたちとこの島で遊んでいますか。それとも、僕と行きますか。」

 難しい選択であった。知り過ぎれば命に関わるのだろう。カイの誘いを断ったとしても、セイラがカイの行方を追うことは必定であり、どの道、彼の後を追う羽目になるのである。それに、魔術師として、永久に封印されなければならない物とは何なのか、それを知りたいという好奇心もあった。過ぎた好奇心が身を滅ぼす原因になりうることはよく知っていたが、その衝動は抑え難かった。クロウリーは「どの道、行くことになるんですから。ですが、カイ君、カイ君がいなくなったら、セイラさんは、間違いなくカイ君の後を追いかけますよ。どうするんですか」と言った。

「それが問題です。本当は、僕一人でこの事件をこっそり解決し、すべてを闇に葬りたかったのですが。」

 そう話し終えた時、カイは自分達を物陰から監視する視線に気付き、何気ない様子でクロウリーに囁きかけてきた。

「どうやら、僕達を監視している人たちがいるようです。」

 クロウリーが驚いて周囲を見回そうとすると、カイがそれを制止した。

「クロウリーさん、ダメですよ、そんなことをしたら。こんな時は、気付いても気付かない振りをするものですよ。」

「ですが、どうして、私達のことを知っているのでしょう。」

「簡単なことです。相手は、僕のことを知っているのですから。」

 何故、敵がカイのことを知っているのか、尋ねたいと思ったが、深入りしないことを彼に約束しているため、クロウリーは敢えてそのことを尋ねないことにした。そして、カイの忠告に従い、監視に気付かない振りをして、買い物を続けた。裏通りに入った時、カイが彼にこう尋ねてきた。

「クロウリーさん、相手を二三日眠らせたり、記憶を操作すること出来ますか。」

 記憶を操作することも出来なくはないが、それはかなり本格的な魔術になる。今すぐ、ここで相手にかけるというわけにはいかなかった。

「一週間くらいなら、今すぐ眠らせることが出来ますが、かけてもいいんですか。」

 クロウリーは、カイがこくりと小さく頷くのを見ると、馬というの名の牛のに背負わせた荷物を直す振りをして、懐から一枚の呪符を取り出した。そして、牛の体を上手く利用して、周囲から見えないようにして、それを破り術を発動した。その瞬間、物陰から監視していたその男はばたりと地面に倒れ込んだ。それから、彼は何事もなかったようにカイの下に戻り、「これで良かったのですか。返って、疑われたりするんじゃないでしょうか。」と尤もらしい指摘をした。

「これで大丈夫ですね。そして、明日にはこの島を立ちましょう。」


セイラ4 3章の続き5 [セイラ4]

 事件

 

 セイラがそう尋ねるのは無理もない話であった。彼女は、自分達がどのような仕事を宰相から請け負わされたのか、知らなかったのだから。仕事の依頼主である宰相は「細かいことは、クロウリーさんから聞いてください」とだけ言い、それ以上の話をしようともしなかったのだから。

「これは僕のだろうが。お前は自分の分をさっき食べたじゃないか。」

「何を言っていやがる。これは俺の分だ。お前はこれでも食らいやがれ。」

 カイとホトトギスのいつもの食料を巡る争いの中、クロウリーは惚けた様子でこう答えた。

「実は私も何も知らされていないのですよ。何かこの島で事件が起きているようだから、調べに行ってくれ、とだけ言われただけですから。」

「でも、宰相様は、クロウリーさんから詳しい話を聞け、とおっしゃっていましたよ。一体、どういう事ですか。説明してください。」

 セイラは、二人の喧嘩を横目に挟みながら、そう言った。

「さあ、どういう事でしょうかね。きっと、自分達でその事件を捜せ、と言うことでしょうか。あの宰相のしそうなことですね。」

 クロウリーは、そう言うと、取っ組み合いの喧嘩を始めた二人に、「それくらいにしたらどうですか。これ以上すると、テーブルがひっくり返っちゃいますよ」と軽く注意した。

 これまでにも同じようなことがあった。目的地を告げられただけで、事件のことは何も知らされず、そこに無理やり派遣されたのである。セイラは、このことを思い出し、今度もまた同じかと思い、大きな溜め息をひとつ吐いた。しかし、今回はこれまでとはすこし状況が異なっていた。クロウリーが先遣隊としてこの島に派遣されており、事件の情報収集をしていたはずであるから。そして、クロウリーが何か情報を掴んでいるのは、まず間違いのないことであった。セイラは、二人の喧嘩を止めさせようとしているのか、ただ、喧嘩をあおっているのか分からない言葉をカイとホトトギスに無責任に発しているクロウリーにこう斬り込んだ。

「クロウリーさんは宰相様に事件の調査のために派遣されたのでしょう。ですから、何か情報を掴んでいるはずです。それを教えてください。」

「これと言って有力な情報はありませんが、一つ二つ面白い話を耳にしました。噂の範疇を越えませんが、聞きますか、セイラさん。」

「この馬鹿鳥、もう許さない。」

 一方、セイラとクロウリーの話を聞こうともせず、嘴で額を突つかれたカイがなおも顔にへばりついているホトトギスを振り落とすと、側にあった箒を持って、身構えた。そして、それに応じて、「望むところだ、小童」と言って、ホトトギスがテーブルの上にあったスプーンを二本持って、床に飛び降りた。

「煩いわね、ちょっと静かにしてよ。」

 セイラは、二人の様子を一瞥し、これと言って深刻な事態に至らないことを悟ると、クロウリーに顔を向けた。

「もちろんです。それでどんな話なんですか。」

 セイラのその言葉を合図に、二人の喧嘩が始まった。カイの箒の一撃を、ホトトギスは、スプーンを交差して難なく受け止めると、床に落ちてあった胡椒の容器を蹴り上げ、カイの視力を奪った。

「汚ねえな、お前。それが男のすることか。」

「煩い。勝負は勝ち負けの結果こそがすべてだ。それよりも、これでも食らいやがれ。」

 ホトトギスは、今度は手にしていたスプーンを一本カイに投げつけた。それは狙いを過たずカイの額の上に命中した。しかし、その一撃が居場所を教えることになり、ホトトギスにカイの光速の箒の一撃が繰り出された。胡椒の煙の立ち込める中、ホトトギスはそれを受け損ねて箒の直撃を頭に受けた。こんもりと盛り上がるたんこぶに涙しながら、ホトトギスは呪詛の言葉をカイに投げつけた。

 カイとホトトギスの低次元な争いを楽しそうに眺めながら、クロウリーはセイラに噂話を少し脚色して話し出した。

「噂というのは、この島の若い男の子が時折姿を消すというものです。カイ君くらいの年齢の少年が、突然、姿を消すんです。この島の人達は、駆け落ちか何かだろうと噂し合っていますが、年が年ですからね。それに、女の子がいなくなったって話はありませんから、ますますおかしいですよね。それとも、少年同士、道ならぬ恋に絶望し、身投げでもしたんでしょうか。だとしたら、死体が上がりますよね。変な話だと思いませんか。」

「お前こそ汚いんじゃないか、この餓鬼。ソースを投げつけるとは、どんな了見をしているんだ。」

 全身ソース塗れになったホトトギスは、今度はテーブルにあったケチャップをカイに蹴飛ばした。カイは、それを箒で叩き落とそうとしたが、衝突した勢いでケチャップが破裂した。結果、カイは返り血を浴びたように全身をケチャップだらけにした。

「お前こそ、食べ物を粗末にしたらいけないだろうが。」

 カイはホトトギスを罵倒すると、近くにあったお玉を投げつけた。ホトトギスは、それを上空で交わしたが、交わしたところを箒で叩かれてしまった。壁に衝突し、床に落ちたホトトギスは、「こんな物を投げていいのか。それが剣士のすることか」と罵った。

 もはや怒る気力さえなくしたセイラは、大きな溜め息を吐いた後、クロウリーとの話に戻った。

「真面目に話してください。ですが、以前同じような事件がありましたよね。確か、あの時は吸血鬼でしたね。だとしたら、今回も吸血鬼でしょうか。」

 花瓶の割れる音と茶碗の割れる音がした。「ああ、もったいない」とクロウリーは呟いた後、「これでも私は真面目なんですが。それはそれとして、あの時は女の子でしょう。今回は男の子ですよ。その栓は薄いんじゃないでしょうか」と答えたが、何かを思い付いた様子で「そっちの気のある吸血鬼なんでしょうか。いや、女の吸血鬼と言う線もありますね」と付け足した。s


セイラ4 3章の続き4 [セイラ4]

 鳥の骨格上、正座出来ないはずであるが、真っ当な生き物でないホトトギスは、足を折り畳み、羨ましそうに三人が食事をするところを眺めていた。お預けを食わされた犬のように、滂沱の涎を垂らし、座っている辺り一面を涎の海と化していた。

 このままでは、僕は凍え死んでしまうに違いない。何としても、体温維持のためにご飯を食べないと行けない。

 ホトトギスは、悲壮な決意で、カイの朝食を奪うことにした。その後にセイラの地獄の責め苦もかくやという折檻が待っていることを知っていたが、体を維持するために、カイの隙を窺い、その決行の時を待った。その瞬間はすぐにやって来た。セイラの質問に、カイが食事の手を休め、視線をセイラに向けた。時は来た。ホトトギスは、カイの朝食を目掛けて、突進した。しかし、油断することなく、彼の行動に注意を払っていたカイに呆気なく床に叩き落とされてしまった。

 エネルギー切れに違いない。そうでなければ、こんな小僧に叩き落とされるわけがない。

 ホトトギスは、無念そうに床の上に這い蹲い、呪詛の言葉を吐いた。

「この野郎、お前は操り人形カイの癖に、会長の俺にこんなことを働いて許されると思うのか。」

 カイにそう毒づいた後、ホトトギスは助けをセイラに求めた。

「セイラ、カイが僕を苛めるよ。カイが僕を苛めて喜んでいるよ。」

 テーブルの下から床に正座しているはずのホトトギスの助けを求める声がするので、セイラは驚きテーブルの下を慌てて覗き込んだ。ホトトギスがどういうわけかカイに踏みつけられ、床を舐めさせられている姿を目にし、声を荒げた。

「カイ君、ホトトギスになんて酷いことをするのよ。見損なったわよ。」

 全て、ホトトギスの計算通りに事は進んでいた。ホトトギスは、カイが大人しく食料を譲ってくれればそれでよし、それに失敗したら、カイを貶めて、一緒にご飯抜きの刑を味合わせるつもりでいた。事件は全てセイラの死角であるテーブルの下で起きていた。事の真相を知るのは、当事者であるホトトギスとカイの二人だけであった。そして、今の場面だけを見れば、カイがテーブル脇に正座していたホトトギスを踏みつけているしか見えず、また、カイがいかなる言いわけをしようが、それは言い逃れにしか聞こえないはずであった。そして、事態はホトトギスの思惑通りに推移しているように見えた。

「姉ちゃん、それは誤解だよ。こいつが僕のご飯を横取りしようとしたから、僕はただ払い除けただけだよ。こいつの悪どさは、誰よりも、姉ちゃん知っているでしょう。」

 たったそれだけの説明でセイラはテーブルの下で何が繰り広げられていたことを理解した。

「なーんだ、そうだったの。疑って悪かったわね、カイ君。」

 何なんだ、この差は。これでは、本当にカイが僕に酷いことをしても僕が悪者になってしまうではないか。ならば、ともに地獄に落ちるまでだ。

 セイラとの会話で注意が疎かになったカイの足を素早く払い除けると、ホトトギスはカイの向こう脛を嘴で突ついた。ぎゃーと上がるカイの悲鳴とともに、第二ステージの幕が上がった。

「決闘だ、カイ。よもや、俺の挑戦を断るような真似はしまいな。」

 ホトトギスは、テーブルの下から抜け出すと、首から掛けたポシェットから、セイラの縫針で作った剣を取り出し、身構えた。一方、少年剣士であるカイは、剣を向けられた以上、剣士としてそれを無視できなかった。カイも「お前は、本当に懲りない奴だな、前に一回、剣の勝負で負けているだろうが。剣の勝負を僕に挑むなんて、百万年早いんだよ」と言うと、近くにあった箒を取り、椅子から立ち上がろうとした。

 カイは憶えていなかったが、ホトトギスとカイの剣による果たし合いはこれで三度目であった。そして、僅差ではあったが、ホトトギスは二度ともカイに不覚を取っていた。それ故に、ホトトギスは、どのような悪辣な手を使おうが、勝たなくてはいけなかった。例え、隣にいるクロウリーの身を盾にしても、この勝負を落とすわけにはいかなかった。彼は不退転の決意でこの果たし合いに向かった。

「二人とも馬鹿な真似は止めなさい。むきになるほどのことじゃないでしょうが。」

 セイラの言葉も、二人の耳には届かなかった。椅子から立ち上がったカイは、箒を正眼に構えた。

「ホトトギス、ご飯食べてもいいわよ。食べないと捨てちゃうわよ。」

 先ほどまでの決意は何処へやら。ホトトギスは、カイに飛び掛かるように見せかけると、その進路を即座にセイラの下に反転させた。そして、自分の料理の前に舞い下りると、「わーい、僕のご飯だ」と大声を上げ、それを貪り始めた。

 ホトトギスの健啖ぶりを横目で睨みながら、セイラは「ちょっと見せてね」と言って、縫針から彼が作ったホトトギスの剣を手に取った。そして、二度とこのような騒動を起こさせないために、「これは没収よ。あんたみたいな馬鹿に、こんな物騒な物持たすと、また何をしでかすか分からないからね」と言って、自分の裁縫セットにそれを戻した。ホトトギスが「えーっ」と不満そうな声を上げると、物騒な視線でそれ以上のホトトギスの言葉を制し、クロウリーにこう語りかけた。

「ところで、クロウリーさん、今回の事件って一体何なんですか。」


セイラ4 3章の続き3 [セイラ4]

 一方、嫌な胸騒ぎを覚え、セイラは、ホトトギスが出て行ってからから幾らも時間が経たないうちに、目を覚ました。いつもなら、幸せそうに彼女の胸の間に顔を埋め眠っているホトトギスの姿がなかった。何処に行ったのだろう。セイラは、慌てて胸に手を当てた。ホトトギスが眠っていたその辺りに微かな温もりが残っていた。出ていってからそれほど時間が経ていない。総判断したセイラは、夜着のまま、慌てて寝台から出た。そして、休んでいるカイに近付くと、「カイ君起きて」と大きな声を上げ、何度もカイの体を揺さぶった。

 それから暫くして、ようやくカイが目を覚ました。「姉ちゃん、何かあったのか。」寝惚けた様子でそう呟き、カイは眠そうに何度も目を擦りながら面度臭そうに体を置き上がらせた。

「ホトトギスがいないのよ。」

 カイは、セイラの眠っていた寝台に目を遣った。そして、彼の姿を室内に求めた。

「クロウリーさんもいないようだけど。どうしたんだろう。」

 カイは、呟くようにそう言うと、「あいつと一緒に出掛けたのかな。だとしたら、何処に行ったんだろう」と、ホトトギスが行きそうなところについて考え始めた。

「そう言えば、クロウリーさんもいないわね。」

 そう言うと、カイの顔を見詰めながら、セイラもまた考え始めた。

 窓から曙光が差し込んできた。それに促されたように、カイが「ちょっと出掛けているね。でも、すぐに戻ってくるから、心配しないでいいよ」と言い残し、その部屋を出ていった。言葉の通り、すぐに戻ってきた。カイのその姿を見て、セイラが「カイ君、何処に行っていたの」と尋ねてきた。

「もしかしたらと思って、馬の所に行って見たんだ。そうしたら、案の定、馬の姿はなかったよ。きっと、クロウリーさんと干物の商売に行ったんじゃないかな。クロウリーさん、昨日、酔った勢いで、あいつの商売のこと随分持ち上げてしていたから、無理やりあいつに付き合わされたんじゃないかな。」

 カイは、歩きながらそう答えると、彼の姿をじっと見詰めているセイラにこう話しかけた。

「姉ちゃん、そんなにじっと見ないでよ。姉ちゃんが見ていたら、着替えが出来ないでしょう。」

「ごめんなさい。」

 セイラは、苦笑いを浮かべながら、そう言い、彼に背を向け、自分の寝台に向かった。私も着替えをしようかな。彼女はそう思い、彼女の背後で着替えをしているカイにこう言った。

「私も着替えをするから、カイ君、こっち見ちゃ駄目よ。私がいいと言うまで、振り向いたら駄目だからね。」

 カイが覗き見をするとは思わなかったが、一応、そう断ってから、セイラも着替えを始めた。

 着替えを済ますと、二人は仲良く連れ立って洗面台に向かい、まるで姉弟のように仲良く洗面をした。それを終えると、朝食の準備に取り掛かってきた。

 まるで時間を計ったように、朝食の準備が終わった頃、ホトトギスとクロウリーが戻ってきた。セイラが何か小言を言うことを予想し、その前に、ホトトギスが部屋に入るのと同時にセイラに話を切り出した。

「クロウリーに案内を請い、情報収集に出掛けたんだけど、なかなかの収穫だったよ。きっと、僕の日頃の行いがいいからだろうね。」

 セイラは、彼に背を向けたまま、朝食の料理をテーブルの上に並べながら、ホトトギスにこうこたえた。

「商売が旨く言ったの間違いじゃないの。それに、日頃の行いがいいからじゃなくて、狡猾非道だからの間違いじゃないの。」

 手厳しい出迎えの言葉であった。ホトトギスは、セイラの機嫌がすこぶる悪いことを知り、何とか彼女の機嫌を直そうと、話を続けた。

「もう、セイラはお茶目なんだから。そんなこと、思ってもいないくせに。」

「思っているわよ。」

 依然として、背を向けたまま、セイラは朝食の準備を忙しくしていた。それに痺れを切らしたホトトギスが再び話しかけた。

「干物の商売の話をしたのは敵を油断させるため。それで、クロウリーに干物商人の振りをさせ、怪しまれないように情報収集をしたんだ。この街には敵のスパイがいるかもしれないし、僕達の存在を知られちゃまずいからね。あくまで商売は偽装で、諜報が目的だったんだ。そうだろう、クロウリー。」

 突然、同意を求められ、クロウリーは驚いた様子を見せた。しかし、狡猾であるが意外と単純なホトトギス以上に一癖も二癖もあるクロウリーは、すぐさま表情を取り繕うと、何食わぬ顔をして、こう答えた。

「そうだったんですか。いやあ、さすがですね、味方の私もすっかり騙されてしまいましたよ。何しろ、この方は、商売の話ばかりを熱心にし、そのような素振りを一瞬も見せませんでしたから。しかし、何時、情報収集をしたのでしょうか。少なくとも、私の見ている所では、そのような素振りを微塵も見せませんでしたから。」

 表面的にはホトトギスの行動を肯定しているように聞こえるが、彼が商売にのみ専心し、諜報活動を全く行っていないことを暗に仄めかしていた。ホトトギスは、クロウリーの奴め、憶えていやがれ、と臍を噛みながら、馬鹿でないが鈍いセイラがそのことに気付かないようにと祈り始めた。

「そうなの、疑ってごめんなさい。」

 セイラが満面の笑みを浮かべて、彼の方に振り返ってくれた。ホトトギスは、良かったと安堵し、その笑顔に誘われるように彼女の方に飛んでいった。もう少しで彼女の右肩に届くと言う所で、飛行中の彼は、セイラに床に叩き落とされてしまった。

「あんたの話を信じるわけがないでしょう。嘘を吐いた罰として、朝ご飯抜きだからね。そこで正座して、みんながご飯を食べるところを見ていなさい。」

 


セイラ4 3章の続き3 [セイラ4]

 朝

 

 クロウリーは甘かった。その甘さを、その翌朝、骨の髄まで思い知らされることになった。

 クロウリーは、宴会で深酒をして、休んでいた。神官のセイラでさえまだ起きない夜明け前、夢の国の住人である彼の枕元に来ると、ホトトギスが彼の頭を足の裏で蹴飛ばしたのである。カイの時とは異なり、十分手加減をされていたが、その痛みで目を覚ましたクロウリーは、彼の口を翼で塞いでいるホトトギスの姿を見た。

「起きろ、朝だ。商売に出掛けるぞ。」

 口を塞がれているので、「何で私が」と言えなかったが、ホトトギスは、クロウリーの顔からそのことを読み取ると、凄みを利かせた声で彼にこう迫った。

「昨日、お前は俺の商売の理念に賛同したろう。お前が行かないで、一体、誰が行くと言うのだ。」

 確かに、クロウリーは、昨晩、酩酊し、「それは素晴らしいですね。是非とも、頑張ってください」と、協力すると解釈されても仕方のないことを口にしていた。しかし、それは酒の上でのことであった。

「嫌だと言うのか。馬がどうなってもいいみたいだな。あいつは、ここのところ不眠で苦しんでいるようだが、意外に、俺の胃に収まる日が近いのかもしれないな。」

 ホトトギスは、昨晩のクロウリーを言質に取った上、さらに脅迫を始めた。

 断ったら、ホトトギスが何をするか分からない。ホトトギスが馬という名の牛の肉を狙っていることは明らかであり、馬の不眠の原因がホトトギスであることも明らかであった。クロウリーには、彼の商売の協力する以外の選択肢はなかった。それ故に、目の光で「喜んで、協力しますとも」と告げると、慌ただしく着替えを始めた。

 クロウリーから商売の協力要請を取り付け、ホトトギスは、すやすや眠っているカイの額に乗り彼の着替えの姿を見ていた。彼がこの島の民族衣装ではなく、魔術師の政争とも言えるローブを着ようとするのを見て、「お前は馬鹿か。そんな服を着て商売が出来ると考えているのか」と呆れたような声で言った。

「何か問題でもありますか。」

「魔術師が世間からどう思われているのか考えてみろ。そこに答えがあるだろう。」

 魔術師は、魔族の協力を得て、様々な奇跡を起こすことが出来る。世間の価値観とかなり異なった価値観を魔術師は持っていたが、魔術を使う以外、普通の人間と何ら変わったところはなかったけれど、そのため、魔術師は魔族に組するものと世間から忌み嫌われ、恐れられていた。

「なるほど、それもそうですね。」

「お前も案外馬鹿だな。もう少し利口かと思ったが、カイと同レベルのようだ。どうやらオレの買いかぶりであった。」

 暇潰しにカイの額の上で踊りを踊りながら、ホトトギスは吐き捨てるようにそう言った。

「お褒め頂いてあり難いことですね。それに、カイ君は、結構、切れ者ですよ。そのことは、あなたが一番ご存知じゃないのですか。」

 歌の神様である六歌仙と肩を並べる歌詠みと自任するホトトギスは、言葉に対して極めて敏感であた。クロウリーの「切れ者」という言葉を耳にすると、踊りを止めて、クロウリーの方に向き直った。

「確かに、カイは切れ者かも知れんな。なんたって、詰まらんことで逆上し、すぐに刀を振り回すからな。」

 彼が何を言いたいのか理解できず、クロウリーは服を着る手を止め、怪訝そうな顔をして、一人ほくそ笑んでいるホトトギスの姿を見た。

 洒落なのだろうか。気の利いた返事をしないと、面倒なことになるかもしれない。

 クロウリーは、彼のユーモアについて考えた。暫くして、彼の洒落の意味が理解でき、「洒落ですか。切れ易いと、刀は切るもんだとかけたんですね。なるほど、なるほど」と彼にお追従を述べた。

「すぐに気づけ。しかし、まあ、俺の洒落は高度だから、お前の貧弱なおつむでは理解できんでも無理はないか。」

 ホトトギスはそう嘯くと、再び踊りを始めた。そして、クロウリーが着替えを済ますと、彼の頭に止まり、様々な指示を与えた。

 ホトトギスは、馬のいる場所に着くと、見本となるホトトギスマークの付いている干物の入った麻袋をポシェットから取り出し、それお馬の背の両側に一つずつ取り付け、ロープを嘴で丁寧に結んだ。準備万端、ホトトギスとクロウリーは、まだ明け遣らぬ街に出掛けていった。

 


セイラ4 3章の続き2 [セイラ4]

 その晩、一行は再会を祝して、宴会を始めた。テーブルの上に所狭しと並べられている料理の中に魚の干物があるのを発見し、クロウリーが誰とはなしにそのことを尋ねかけた。

「これはホトトギスマークの干物だ。」

 ホトトギスは、そう言ってから、ホトトギスマークの干物の説明を始めた。なるほど、なるほど、と適当に相槌を打ちながら、クロウリーは隣に座るカイに話しかけた。

「ホトトギスマークの干物というのは、何なのですか。」

「ホトトギスが作った干物の会社のことだよ。」

 カイは、そう答え、荷物からホトトギスと取り交わした覚え書きを取り出し、それに目を落とし、唖然とした。

「おい馬鹿鳥、これはどういうことだ。利益配分が約束と変わっているぞ。」

 説明を求められたホトトギスは、ポシェットから自分の分の覚え書きを取り出し、それをカイの覚え書きの前に置いて、照らし合わせた。

「利益の配分は、ちゃんと0.199になっているじゃないか。言い掛かりはつけてもらいたくないな。」

「約束は1.198.9だったじゃないか。それはそれとして、何処に0.199と書いてあるんだ。199と書いてあるじゃないか。」

 ホトトギスは、何ら悪びれた様子を見せる来なく、染みのような小数点を右の翼で指し示し、

「これは小数点じゃないのか。小数点じゃなければ、一体、何なんだ。説明してもらおう蛇ないか。」

と言い放った。

 クロウリーがポケットからルーペを取り出し、染みのような小数点をじっと見詰めた。

「確かにこれはインクの痕ですね。どうやら、カイ君、あの方に騙されたようです。こういう書類は、大切に保管して置かないといけません。それから、署名、何度も確認した上、さらに原本のほかに写しを取っておかないとkけません。そうじゃないと、こんな風に人に欺かれることがあるんです。いい勉強をしたと思って、諦めることですね。」

 署名捺印までしており、それは正式な文書としての効力を有している。幾ら後で騒いでも、どうにもなるものではない。カイは泣き寝入りするほかなかった。

「あんた、カイ君を騙したの。」

 セイラは、憤怒の形相をして、自分の覚え書きを大切そうに仕舞い込んでいるホトトギスを睨み据えた。

「違うよ、カイが勘違いしていただけだ。利益配分は、最初から、0.199と決まっていたんだ。欲に眩んでなのだろうけど、小数点を見落として、一対九十九と勝手に思い込んでいただけなんだ。僕が善良でかいわいいカイを騙したりするはずがないでしょう。そのことは、セイラが一番良く知っているでしょう。」

 嘴から先に生まれたようなホトトギスである。セイラがいくら詰問しようが、彼の嘴から真実を引き出すことは出来ない。このことを痛いほど良く知るセイラは、大きな溜め息を吐いた。それから一呼吸置いて、彼に尋ねた。

「あんたどうしてホトトギス干物商会を始める気になったの。狡猾でずる賢いあんたなら、もっと楽して大金を稼げるでしょうに。」

 ホトトギスは、ホトトギスマークの干物を一口二口啄ばんでから、セイラの顔を見上げた。「話より、こっちの方が分かり易いよ」と言うと、首からかけているポシェットから何やら書類らしいものを取り出し、それをセイラの目の前に置き、「ここを読んでみてよ」と言って右の翼で書類の一個所を指し示し、大きな声を上げてそれを朗読し始めた。

「利益第一主義の経済活動が社会に蔓延する中、ホトトギスマークは、敢えてその趨勢に逆らい、消費者に安全で安価、高品質な商品を届ける任を担うことを決意し、その責を全うするために、ここに設立する。ホトトギスマークは、いかなる社会制度にも組せず、ただ消費者の利益のみを願い、また、社会全体の恒久的な平和と貧困の絶滅を、消費者にホトトギスマークの商品を届けることで実現することを、ここに誓う。」

 セイラが唖然と彼を見詰める中、ホトトギスは「つまり、いい商品を破格値で消費者に届ける、これがホトトギスマークを設立した理由んなんだ」と設立の理念を簡潔に述べた。

 金のためならば悪魔に魂を売りかねないホトトギスである。セイラは、真顔で尤もなことを嘯く彼の姿を見て、思わず大声で笑い出した。

「あんたが、守銭奴のあんたが、消費者のために。」

 お腹を抑え、腹を捩らせて笑っていたが、彼女は、何とか、笑いを噛み殺しそれだけ口にした。それから、再び大声で笑い出した。

「どうして、そんなに笑うのよ。ここには何処もおかしな事は書いてないでしょう。いかなる政治体制にも組せず、消費者の健康の増進を願って、ホトトギス干物商会を始めたんだ。一体、その何処がおかしいのか、答えてよ、セイラ。」

 確かにホトトギスマークの設立趣旨には、何処にもおかしな事は書かれていなかった。むしろ、ある意味において、経済の理想的な理念が記されていた。とは言え、それを記したのが狡猾でお金のためならいかなる悪事もしかねないホトトギスである。これ以上の皮肉があるであろうか。セイラは、さらに体を捩らせ、目に涙を浮かべて、笑い始めた。

「もう、何も言わないで。それ以上言ったら、私笑い死にしちゃうわ。」

 かかる恥辱を受けて、それを見過ごせるであろうか。ホトトギスは、書類を何枚かめくり、今度は違う所を右の翼で指し示した。

「嘘じゃないよ。ちゃんと、僕の高邁な理想が書き示されているんだから。

 

 廃棄とは焼却処分のことを意味するが、それを食し、不都合が生じても、ホトトギスマークとこの魚屋にいかなる損害請求をしない、と誓約する者にそれを無料に与える場合も廃棄に含む。ホトトギスマークは、むしろこの方法を推奨する。一般の養老院や孤児院に廃棄品をホトトギスマークとして無料で寄付することを強く願う。

 

 一定の品質に達しないもの、安全で高品質な干物で大きさが小さいとかではねられたものなんだけど、それを養老院や孤児院に無料で寄付するんだから。こんなことをする商人は殆どいないよ。それに、商売が上手く行き、ホトトギスマークが大きくなったら、ホトトギス財団を作り、お客様の福利厚生の向上を図る予定。」

 ホトトギスマークの干物を美味しく食べていたクロウリーは、ホトトギスの希有壮大な夢話を聞いて、感心した様子で「どうして、そんなことを思いついたんでしょう、カイ君。」とホトトギスに聞こえないように小さな声で隣に座るカイに尋ねた。

「海鳥から魚を分け与えられたのが、干物屋を始めたきっかけだけど、後は思い付きでしょう。ひょっとしたら、社会事前をしていることで消費者の購買意欲を刺激することが目的かもしれないね。同じ価格の干物があったなら、消費者はホトトギスマークの干物を選ぶでしょう。お金に意地汚いあいつの考えそうなことだ。」

 ホトトギスの狡猾さ、転んでもただでは起きない性格、さらに吝嗇を誰よりも知っているカイらしい穿った意見であった。クロウリーは、「なるほど、なるほど」と納得した後、カイにこう囁いた。

「損して得取れですか。いかにも、あの方が考えそうなことですね。でも、あの方の言うように消費者利益に繋がるんですから、そう邪険に言われることは、ないんじゃないでしょうか。」


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